2022年8月24日、広島県立中学校に通っていた当時中学2年生の男子生徒が列車にはねられ死亡しました。2024年に県が設置した第三者委員会は、ことし4月、調査結果をまとめた報告書を公表しました。
調査報告書は、▼男子生徒の心理状況について、大量の課題と厳しい指導に恐怖心を抱き、抑うつ状態になったこと、さらに「叱責されない状態を維持しなければ」という緊張などから危機的な心理状態になったとしています。▼また、学校の対応については、教員による厳しい叱責のほか課題の受け取り拒否を確認。生徒に支援が必要と分かったあとも、保護者に伝えず支援を行わなかったと指摘しました。
調査報告書を受けて、学校はこれからどう変わっていけるのでしょうか。遺族、学校、県それぞれの受け止めを取材しました。
男子生徒の両親
「性格はすごく温厚な優しい子でしたからね。反抗したっていう証言は(報告書の中に)一つも出ていない」
大切な子どもの死から4年。男子生徒の両親は調査報告書をどう受け止めたのでしょうか。

男子生徒の母親
「かなりしっかり調べてくださって、こちら側の主張とかそういうのを酌んで下さっているなというのは、最初に見た時にそう思いました」
男子生徒は入学以来、大量の課題に追われ続けました。成績は上位を維持していましたが、ミスや提出の遅れがあると教員は厳しい叱責を加え、課題のやり直しが続きました。
男子生徒の母親
「(課題を)出したら、また怒鳴られるって思うと『もう怖くて出せない』っていう言い方をしたんで。とにかく『完璧にして出せ』と言われ続けたんだろうなと思うんですよね。今思えば」
第三者委員会が県立中学校の生徒や保護者に実施したアンケートからは、教員の不適切な指導が浮き彫りとなりました。

男子生徒の母親
「これです、『先生から人格を否定するような指導をされており、涙を毎回流してた』とかね」
男子生徒の父親
「少なくとも毎回泣かされるような叱責を受けていたっていうのは、ちょっと。うん、それは本人ショックだろうなとは思いますね」
教員による叱責は他の生徒に対しても行われてました。「人間のクズ」「こんなこともできないのか」。暴言の一部は報告書にも記載されました。

大量の課題と叱責について、第三者委員会の聞き取りに対して当時の教員はこう証言しています。
教員の証言(調査報告書より)
「2年生で厳しくすると、1年生のときの先生が良かったってなる。1年目でこうしないといけないということをしつけておくのが重要」

課題の提出や成績ばかりに言及し、教員は「目の前の生徒の心に関心を向けていなかった」。報告書は「学校の対応には問題があったと言わざるを得ない」と指摘しました。
男子生徒の母親
「課題の量も不適切。難易度も不適切。叱責を繰り返したのも、面前叱責なのも、怒鳴るのも暴言も、全部不適切。それをまずはあの学校は理解しなければいけないはず」

不安や悩みを強く抱える子どもたちほど、不調を誰にも相談しない傾向があるとされています。体調不良を抱えつつ、男子生徒は2年生に上がっても自ら登校を続けました。
男子生徒の母親
「『もうやめようよ、この学校』って言った覚えはあるんですよ。なんかこの調子だとずっと嫌な思いをするんじゃないかと思ったから。『転校したっていいんじゃない』とか」

友人も多く、部活動も楽しいからと転校を拒んだ男子生徒。
男子生徒の母親
「『しんどかったら早退するんだよ』とか、『保健室行かしてもらうんだよ』って言うんだけど、夕方はえらい元気で『大丈夫』っていう感じで言うんですよね。だから、不登校になってなかった」
一方で男子生徒は教員を信頼することはできず、学校でSOSを出そうとはしませんでした。しかし…
男子生徒の父親
「これは2年生のときの、一番最後です。“要支援群”で教師との関係が(最も低い)」

亡くなる3ヶ月前、男子生徒は学校生活のアンケート「QUテスト」を受けていました。結果は、早急な対応が必要な「要支援」。「教師との関係」は最低の評価でした。
学校はこの結果を両親には伝えませんでした。両親が結果を知ったのは、生徒の死亡から2年後、個人情報開示請求をしてからです。そればかりか、学校は男子生徒が亡くなった後に行い県教委に報告した「基本調査」に「QUテスト」の結果については記載しませんでした。
男子生徒の母親
「(QUテストの)『結果をいつ見たんですか』って言ったら、担任の先生は、(2022年)6月の末に結果が返ってきて、学年団で共有しましたと。担任の先生は『気づかなくてごめんなさい』って、それまで私に言ってたんです。『気づかなかったんじゃないんですね、気づいてらっしゃったんですね』って私は言った」

調査報告書を受けて、県立中学の校長がRCCの取材に応じました。
校長
「二度とあってはならない事案として、大変重く受け止めております」
現在の校長は男子生徒の死後に着任しています。当時の対応をどう受け止めているのでしょうか。
校長
「複数の教員から人前で厳しく叱責を受けたりとか、いわゆる支援ということについても十分でなかったというようなところの記載がございましたので、そういうふうに受け止めております」

4月に公表された調査報告書を受け、学校は校内に再発防止委員会を立ち上げました。
校長
「支援を必要としている生徒というのは、どちらかといえばSOSを出しにくいという事実、これを理解した上でさらに本校のいわゆる生徒相談体制の充実に向けて取り組んでいく」
記者
「(亡くなったAさんは)入学以来3回にわたってQUテストを受けていた。SOSを出せない子供たちにとって、セーフティネットであったんだろうと。それが、効果を生まなかった、むしろその効果を学校側が止めていたという事実に対しては、どのように受け止めていますか。

校長
「もうそれは本当、組織体制の不十分さであったと思っておりますので、そういったところも含めて、今回のその再発防止策の中にしっかりと踏まえていきたいと考えております」
“個性尊重”を理念に開校した中高一貫校は、次第に「大学受験の成果」に傾いていったと調査報告書は指摘します。「東大合格者数」など分かりやすい数値が学校の成果として掲げられるようになりました。

記者
「学校はなぜ変わってしまった?」
校長
「学校といたしましては、今のような様々な活動を通した、そのいわゆる先に進学というものがついてくるというふうには考えておるんですけども、しかし今のような、その報告書でもその厳しく批判されているということにつきましては、しっかりとやっぱり受け止めていきたいというふうに思っております」
5月、学校は生徒の死亡後初めて、保護者に対して説明の機会を設けました。
在校生の保護者
「今現在、本当に生徒に不適切な指導がなされていないという風に言えますか。
在校生の保護者
「自分の子どもがただただ無事に学校を卒業して欲しいっていう、そういう気持ちで学校に来させてたっていうことを先生にも知っていただきたいです」

開校の理念と保護者の信頼を再び取り戻すためには、学校現場はもちろん、組織全体として再発防止に取り組んでいくほか有りません。
第三者委員会が提言した再発防止策について、県教委はスクールカウンセラーの配置時間を増やすなど対応する方針です。県立中学校では1年生全員を対象に面接を行うとしています。

第三者委員会はさらに、全ての公立学校を対象に、「学校・県教委から独立した生徒の相談窓口」の設置を強く求めています。
県教委 篠田智志教育長
「実際に県教委から独立した組織となると、どのように教育委員会として関わるのか非常に難しい問題がある。(県の)知事部局も含めてどのように協力体制を組めるのか、あるいは外部の力をどのように借りられるのか様々な検討課題がある」

横田知事も対応を急ぐ考えです。
横田美香知事
「様々な指摘を受けているということは大変重く受け止めたい。教育委員会から独立した相談窓口をという話もあるので、どういう形が適切か、知事部局も含めて検討している。なるべく早く結論を出していきたい」

校長は再発防止と合わせて、これからの学校の変化を誓います。
校長
「今回の報告書受けて、まずやはり再発防止ということが大前提ではあるんですが、そのための1番の基盤になるのが、生徒が1人の人間として大切にされていると感じる学校作りということが、1番の基本に入ってくると思います。まず我々全教職員が同じ方を向いて、同じベクトルで、子供たちの1人1人のそれぞれの個性に応じた成長が、しっかりとサポートできる教員体制であること、それから生徒が本当に学ぶことが楽しい、学校行くことが楽しいと思って、1人1人がそれぞれに目指すところを持って学校に登校してくれる、元気な挨拶をしてくれる、あるいは色んな活動の場面で、子供たちのそれぞれの良さが発揮できるような、そういう場をたくさん設けられるような、そんな学校ができればというふうに思っておりますし、ぜひ今回のこのことを踏まえですね、そういう学校にしていきたいという決意です」

子どもたちのSOSを見逃さない学校作り…男子生徒の死は私たちに大きな課題を突きつけています。
=スタジオ=
広島修道大学の水野君平准教授によりますと、子どもたちにとって、自分の状況を言語化すること自体、ハードルが高いそうなんです。そこでカギとなるのが心理の専門家、スクールカウンセラーです。ただ、スクールカウンセラーは学校に常駐していません。こどもたちとどう繋ぐことができるのかが課題です。そのため、積極的に子どもたちに関わっていけるような制度作りが必要だということです。また、水野准教授は、「教員の職場環境」も大事だと指摘します。「互いに意見をしやすい環境を作る事で、小さなSOSを共有し、チームとして対応することができるのでは」ということです。

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