2022年8月に広島県立中学校の男子生徒が自殺した問題で、24日、県のホームページに遺族のコメントが掲載されました。

この問題は2022年8月、広島県立中学校に通っていた当時2年生の男子生徒が始業式当日に東広島市内の踏切で列車にはねられ、死亡したものです。
詳細調査を求めた遺族に対して県は2024年、専門家などでつくる第三者委員会を設置し、4月に調査結果が公表されました。

調査報告書は学校の対応について、教員による連日の叱責のほか、課題の受け取り拒否など学校の不適切な対応を認めました。また、男子生徒が死亡する3ヶ月前に学校が実施したアンケートで生徒に「要支援」の判定結果が出ていたことを保護者に伝えず、必要な支援を行わなかったことなどを指摘しました。

公開された『遺族所見』で遺族は、「教諭らと、長年この状況を放置してきた学校と県教育委員会には猛省を求めます」としたうえで、「広島県だけでなくこの国が、子ども達の人権を当たり前に守る国になっていることを心から望みます」と綴りました。

遺族によりますと、「所見」は調査終了時に第三者委員会の勧めで寄稿したもので、委員会の承認を得た上で、県の知事部局が掲載を許可したということです。

=『遺族所見』全文=(遺族の許可を得て掲載します)

遺族所見
はじめに、たった六人でこの大規模な調査を行い、膨大な資料を精査して二年間で報告書をまとめて下さった第三者調査委員会の先生方に敬意と感謝を申し上げます。
私たち遺族の心情に充分配慮して中立公正にお仕事をして下さったと感じております。三年前、設置要綱を作る前から遺族に関わり、この調査を支えて下さった広島県総務局総務課の皆様にお礼を申し上げます。そして、この調査を知事部局で行うとご判断を下された、湯崎前知事、田辺前副知事、玉井前副知事、横田現知事に感謝いたします。
ありがたいことに、調査報告書に関する遺族の所見表明をご許可いただきました。報告書の内容に不服はございませんが、制度上、記載されなかった事柄について補足させていただきます。

調査委員会の先生方におかれましては、出生時から幼少期にまで遡り、息子のことを理解しようと努めていただきました。そのため資料は母子手帳や保育園の記録を含め8000頁に及んだと書かれています。誠に頭の下がる思いです。
息子と私たちだけでなく、息子の一ヶ月後に亡くなったMさんとNさんのご遺族のために、アンケートと聞き取り調査や署名活動にご協力下さった、のべ一千人の皆様に心よりお礼を申し上げます。
資料の中には、私たち遺族が当該校の背景事情を知るために卒業生や転校生や在校生たちから集めた証言と、アンケート調査の自由記述部分が含まれます。残念ながら報告書には記載されませんでしたが、それは個人が特定されるおそれがあるためであり、事実ではないと言われた訳ではありません。
卒業生、転校生とその保護者の皆様からは、当該校で十年以上前から過量な課題の強要と厳しい指導が続けられてきたこと、大声で怒鳴る・面前叱責や人格を否定する暴言が繰り返されていたこと、体罰があったという証言がありました。この方達は「私たちが当時、勇気を出して声をあげていたら、A君とMさんNさんの事故は防げたかもしれない」との思いから証言してくださいました。在校生からは、息子と同様にB教諭やC教諭の指導に苦しんでいたという証言や、私たちの知らなかった息子に関する詳しい話がありました。

アンケート調査には、叱責された息子が「毎回のように涙を流していた」ことや、「もう来なくていいと言われた」という記述がありました。他校の保護者の方からも、当該校の不適切な指導を目撃したという証言がありました。MさんとNさんのご遺族も、大変辛いお気持ちを抱えながら調査に協力してくださいました。
B教諭とC教諭だけでなく、当該校で長年にわたり行われてきたこのような「厳しい」指導は、大人の職場であればパワーハラスメントに該当します。文部科学省からは、『池田町における自殺事案を踏まえた生徒指導上の留意事項について(通知)(平成29年10月20日)』において、「児童生徒の特性や発達の段階を十分に考慮することなく、いたずらに注意や叱責を繰り返すことは、児童生徒のストレスや不安感の高まり、自信や意欲の喪失、自己評価、自尊感情の低下を招き、児童生徒を精神的に追い詰めることにつながりかねないことに留意すること。」「教職員による不適切な指導等が不登校のきっかけとなる場合もあるところであり、『義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本方針(平成29年3月31日,文部科学省)』にあるとおり、教職員による体罰や暴言等、不適切な言動や指導は許されないこと。」等、繰り返し戒められているところです。

令和4年12月に改訂された生徒指導提要(文部科学省)第3章3.6.2懲戒と体罰・不適切な指導 においては、具体例をあげて記載されています。

=不適切な指導と考えられ得る例=
・大声で怒鳴る、ものを叩く・投げる等の威圧的、感情的な言動で指導する。
・児童生徒の言い分を聞かず、事実確認が不十分なまま思い込みで指導する。
・組織的な対応を全く考慮せず、独断で指導する。・殊更に児童生徒の面前で叱責するなど、児童生徒の尊厳やプライバシーを損なうような指導を行う。
・児童生徒が著しく不安感や圧迫感を感じる場所で指導する。
・他の児童生徒に連帯責任を負わせることで、本人に必要以上の負担感や罪悪感を与える指導を行う
・指導後に教室に一人にする、一人で帰らせる、保護者に連絡しないなど、適切なフォローを行わない。

さらに「たとえ身体的な侵害や、肉体的苦痛を与える行為でなくても、いたずらに注意や過度な叱責を繰り返すことは、児童生徒のストレスや不安感を高め、自信や意欲を喪失させるなど、児童生徒を精神的に追い詰めることにつながりかねません。教職員にとっては日常的な声掛けや指導であっても、児童生徒や個々の状況によって受け止めが異なることから、特定の児童生徒のみならず、全体への過度な叱責等に対しても、児童生徒が圧力と感じる場合もあることを考慮しなければなりません。そのため、指導を行った後には、児童生徒を一人にせず、心身の状況を観察するなど、指導後のフォローを行うことが大切です。加えて、教職員による不適切な指導等が不登校や自殺のきっかけになる場合もあることから、体罰や不適切な言動等が、部活動を含めた学校生活全体において、いかなる児童生徒に対しても決して許されないことに留意する必要があります。」と続いています。

第三者調査委員会が事実認定したB教諭とC教諭らの指導は、他の生徒たちに見える部室・教室や教室前の廊下で行われた面前叱責であり、不安感や圧迫感を感じる場所(職員室)で行われた指導であり、人格を否定する暴言を用いた、生徒の言い分を全く聞き入れない指導であり、保護者に一切連絡のないものでした。
生徒指導提要の改訂が息子とMさんの他界後であるため列記はされませんでしたが、第三者調査委員会はこれらを不適切な指導であったと認めています。
成績優秀で非行行為もなく教師に反抗もしていない息子が、このように詰られなければならない理由があったのでしょうか。息子は、同級生が不適切な指導を受けるところを目撃し続ける環境にいて、自身も不適切な指導を受けたために、心身症や抑うつ状態の発症に至りました。不適切な指導がなければ息子が心を病むことはありませんでした。

B教諭とC教諭だけでなく、証言にあげられた当該校の教諭らと、長年この状況を放置してきた学校と県教育委員会には猛省を求めます。
かつて広島県では、東広島市立の中学校と府中町立の中学校で、教師による不適切指導を原因とした子どもの自死事案が発生しました。それから十年以上が経過したのに、いまだにこのような事案が起こり、まさか自分たちが当事者になるとは思ってもみませんでした。
息子とMさんが亡くなった後も、あの学校に通う子ども達から教師による面前叱責や人格を否定する暴言に関する相談が、私たちを介して第三者調査委員会に寄せられ続けたことに、憤りと嫌悪感を抱いています。

横田知事と篠田教育長におかれましては、第三者調査委員会の先生方がご提言下さった再発防止策を、速やかに実行していただきたく存じます。メディア関係と県議会議員の皆様は、今後も教育現場を注視し、再発防止策が実行力を発揮するよう、ご支援を宜しくお願い申し上げます。
今日まで私たちを支えて下さった息子の友人たち、保護者の皆様、自死遺族の皆様、きょうだい遺族の皆様に、改めてお礼を申し上げます。
私たちはこの報告書を、向こう五十年間、広島県のホームページで公開して欲しいと要望しました。五十年後、私たち親世代は生きていませんが、息子の姉が、同級生や後輩達が、「もう大丈夫だよ。怖かったね苦しかったね、悔しかったね。でももう、安心していいんだよ」と息子とMさんNさんの霊に報告して快くホームページからの取り下げに応じられるように。
広島県だけでなくこの国が、子ども達の人権を当たり前に守る国になっていることを心から望みます。ありがとうございました。

令和8年6月8日(月)遺族一同

=広島・県立中学2年が死亡した問題=
2022年8月、広島県立中学校に通っていた当時2年生の男子生徒が始業式当日に東広島市内の踏切で列車にはねられ死亡。
男子生徒の自殺を受け、学校は背景を調べる「基本調査」を行い、県教委に「原因不明」と報告。これに対して遺族は詳細調査を求め、県は2024年に専門家などでつくる第三者委員会を設置し、ことし4月に調査結果を公表した。

調査報告書によると、男子生徒は大量の課題と厳しい指導に恐怖心を抱き、抑うつ状態になり、さらに「叱責されない状態を維持しなければ」という緊張などから危機的な心理状態になった。

学校の対応については、教員による叱責のほか、課題の受け取り拒否など不適切な対応を認めた。
また、男子生徒が死亡する3ヶ月前に学校が実施したアンケートで、生徒に支援が必要だと分かったあとも保護者に伝えず支援を行わなかったなどを指摘した。

調査報告書は再発防止策として、
▼生徒が「一人の人間として大切にされている」と感じられる指導・教育の実現、▼教育相談体制の拡充、▼学校・県教委から独立した生徒の相談窓口の設置、などを提言している。