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「髪の毛も抜けて、丸坊主になって…」。広島は6日、80回目の原爆の日を迎えました。たった一発の原子爆弾は広島の街を破壊し、焼き尽くし、1945年末までに約14万人もの命を奪いました。生き残った被爆者にも体や心に大きな傷を残しました。自身の体験を語る被爆者がいる一方で、語ることができなかった被爆もいます。被爆から80年となることし、初めて取材に応じた被爆者がいます。その女性と家族の思いです。
「姉ちゃんが言えんでね、『ちゃーちゃん』『ちゃーちゃん』って言うてね」。広島市で暮らす山田ユキエさん(88)。5つ下の弟・竹本秀雄さん(83)の幼少期のことについて嬉しそうに話します。
「私が玄関を出るとき『ちゃーちゃん、くーりね』って給食に出るクリをねだる。それが日課でしたね」

被爆2か月後の映像にうつる秀雄さん Nichiei Eizo/RCC
秀雄さんは被爆から2か月後に撮影された映像に写る「おんぶされた男の子」です。ユキエさんは、当時8歳。弟の秀雄さんについては…
「いい子でしたよ。みんな甘いかしてね(Q家族のアイドル?)そう、そう。本当ね。可愛かったもん」

秀雄さんは3年前に自分が映像の男の子だと名乗り出て、体験を語るようになりました。しかし─
秀雄さん
「私は3歳と2か月だから、覚えていないんですよ」
秀雄さんは爆心地から約1キロの自宅で被爆。倒壊した家屋の下敷きになりましたが、「『秀雄がここにおる』と兄が見つけてくれたそうです」。当時11歳の兄・定男さんが見つけてくれ、命が助かりました。

逃げるときに見た燃えている橋、水を求める女性…。秀雄さんには断片的な記憶があります。被爆証言をする機会も増え、記憶を補うため、ユキエさんにあの日の状況を聞くようになりました。
それまでは、ユキエさんも原爆の話はほとんどしなかったといいます。もちろん、被爆体験を誰かに話すこともありませんでした。そんなユキエさんでしたが、被爆80年となる今年、初めて取材に応じ、あの日の記憶を語ってくれました。

当時8歳だったユキエさんは千田国民学校(現・千田小学校)に通っていました。1945年8月6日午前8時15分。友だちと登校し、学校に着いたときでした。入り口付近にいたはずのユキエさんは、裏まで吹き飛ばされました。そして、建物の下敷きになり、視界は真っ暗になりました。
ユキエさん
「建物が落ちているから。真っ暗のなか、そのまま這っていったら、明かりがあって。そこを目指すと外に出ることができた。外に出ると火が出ていた。辺りに」
友だちの行方は分からず、一人で逃げました。途中、知人から「家族は吉島に逃げている」と教えられ、目指しました。途中、防空壕があり、そこに避難しようとしましたが、すでに人がいっぱいで、駆け込める場所はありませんでした。途方に暮れているときでした。「ユキエか」。声の方向を向くと、偶然、父親と再会することができたといいます。

幼いときのユキエさん
そこから逃げる途中で目にしたものはいまも忘れていません。
ユキエさん
「もう寝転んでね。親は、死んでいて。でも、子供が泣く泣くね『お母さん、お母さん』って泣いて。あれはよう覚えてる」
避難した場所で、秀雄さんや母とも再会しましたが、13歳だった姉は原爆に奪われました。

かろうじて生き残ったユキエさんでしたが、すぐに体にも異変が生じました。
ユキエさん
「髪の毛が抜けてね。その時はもう丸坊主になって、全部抜けた。それで『もう生えないよ』って言われて」
看てもらった病院で、母が医師から言われた言葉が聞こえてきました。「この子はもうだめだから、よくみてやりなさい」
ユキエさん
「『もう命がない』って。私のおる前で言ったんだね、先生が。もうね、髪の毛も丸坊主なってるし、やっぱり自分はもうダメなんかな、と子供ながらでも思った」
8歳で死を覚悟しました。
ユキエさん
「でも半年ぐらいでね、ぼつぼつ生えてきましたよ。親も喜んでね、『もう大丈夫じゃね』『髪が生えるね』って」
終戦から数年間は広島で暮らしていましたが、その後、九州へ引っ越しました。その後、広島に戻ってきましたが、実家があった場所には訪れたことはありませんでした。

手をつないで実家があった場所に向かう秀雄さん(左)とユキエさん
今年5月。ユキエさんと秀雄さんは、広島市中区にあった実家を約80年ぶりに訪ねました。手をつなぎ、ゆっくりとした足取りで向かっていきます。いま実家があった場所は、マンションが建設されようとしていました。それでも─。
ユキエさん
「(Qご自宅のご記憶は?)広い家でね走り回っていた。2階も、広くて、兄と姉がよくケンカしてね」
懐かしそうに話すユキエさんと秀雄さん。2人とも80歳を超え「出来るだけ会っておこうね」とお互い話します。「実家」へと続く道を手をつなぎながら歩く2人。「初めて手繋いだね」と照れる秀雄さんに「本当じゃね」とユキエさんは笑いました。



















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