10月3日、交通事故で体に障害を負った1人の女性が、特別なイベントを開きました。「できないをできるに変えたい」彼女を突き動かしているものとは。

10月3日、広島県福山市で着物を着てランウェイを歩く女性たちの姿がありました。中には車椅子に乗った人も・・・

イベントを企画したのは藤井佳奈さん(51)です。1年ほどかけて準備を重ねてきました。

藤井さんは12年前のこの日、生死をさまよう交通事故に遭いました。

「あともう1歩、2歩で渡り切るというところを・・・」

藤井佳奈さん
「私はあともう1歩、2歩で渡り切るというところを、左側から来た軽乗用車にはねられて、10m以上飛んで」

藤井さんは2014年10月3日、友人の送別会から帰る途中、軽乗用車にはねられ意識不明の状態で病院に運ばれました。

当時、藤井さんは、小学6年生だった一人娘の莉子さんと2人暮らし。夜10時までには帰ると話していたと言います。

親子の再会は約一週間後

藤井莉子さん(24)
「11時12時になっても連絡がなくて。そのとき、隣の家のお母さんから電話がかかってきて、『交通事故に遭った』と」

親子が再会できたのは、事故からおよそ1週間後。藤井さんが一般病棟に移った後のことでした。

藤井佳奈さん
「娘が『母さん大丈夫?』と声をかけてくれたんだけど、『莉子ごめんね』と言ったときに起き上がることもできなかった」

歩ける可能性は2%・・・でも娘の卒業式に行きたい

医師から歩けるようになる可能性はわずか2%と告げられた藤井さん。絶望の淵で、生きる希望を与えたのはりこさんの存在でした。

藤井佳奈さん
「理学療法士さんが『莉子ちゃんのために頑張りましょう。踏ん張って莉子ちゃんの卒業式に行きましょう。頑張ったら行けますから』と言ってくれて、卒業式にいくのがまず目標だった。やっぱり莉子がいるから、莉子に会いたいからが一番原動力だったかな」

娘の卒業式に行きたい。その一心で懸命にリハビリを重ねました。そして2015年の春、車椅子で卒業式に参加することができました。

藤井莉子さん
「すごく嬉しかったです。卒業式見てもらいたかったんで。無理だと思ってたから」

「娘と一緒に生活したい」 出来ることを増やす藤井さん

あの事故から12年。藤井さんは現在も週5回のリハビリを欠かしません。

車と接触した体の左側は、足を持ち上げられるだけでも痛みが走ります。しかし、娘と一緒に生活したい、娘の送り迎えをしてあげたい。その思いからリハビリに耐え、出来ることを一つずつ増やしていきました。

事故直後はできなかったメイクやピアスも、いまは自分1人でできるようになりました。

それだけではありません。藤井さんはさらに活動の幅を広げます。

「工夫したらできる」と伝えたい

3年前には、福山市にゴミ拾いのボランティアチーム、「グリーンバード」を立ち上げました。

車椅子でもゴミ拾いを出来ると伝えたい。そして、多くの人に車椅子に触れてもらいたいと、仲間たちと清掃活動を続けています。

藤井佳奈さん
「『これどうせ車椅子だからできないでしょ』という言葉に、『工夫したらできるよ』というのを実現してあげたくて」

始動した“ユニバーサルデザイン着物ショー”

そしてことし、藤井さんが新たに「ユニバーサルデザイン着物ショー」を行うことを決めました。

通常、長時間立って着付ける着物は、身体を締め付けるため、諦めてしまう車椅子ユーザーも多いといいます。

藤井さんも諦めていた1人でした。莉子さんが成人式の前撮りをしたとき、藤井さんは着物を諦めワンピースで撮影していました。

藤井佳奈さん
「着物が着たいという夢を話したら、みなさんが『佳奈さん叶えましょう』と言ってくれて。私だけがそれを叶えるじゃなくて、いろんな人の夢を叶えたいと思った」

イベントは事故に遭った10月3日に

新たな挑戦となるイベントの開催日は、藤井さんが12年前、事故に遭った日と同じ10月3日に決めました。

藤井佳奈さん
「『あの日あの道を歩かなかったら』とか。“たられば”を思う時期が近づいてくるのがこの事故に遭った日。事故に遭った日を塗り替えたい。笑って過ごしたいから、そのイベントを開催したいなって」

完成した特別な着物

イベントまで残り一か月を切った9月。藤井さんは、完成した着物を受け取りに来ました。

着物は上下のセパレート型で、上半身部分は負担がかからないようゴムやベルトで固定できるようになっています。

また、衿芯などは縫い付けられ、帯も作り帯になっているため、簡単に着ることが出来ます。

イベント当日の10月3日

そしてイベント当日・・・

会場には指示を出しながら動き回る藤井さんの姿がありました。

オープニングを飾ったのは、手話ダンスチーム。「車椅子だけどダンスをしたい」という子どもの願いを聞き、藤井さんが立ち上げました。

そしてイベント終盤・・・「ユニバーサルデザイン着物ショー」が始まりました。

「とても緊張したけど楽しかった」笑顔こぼれる参加者たち

様々な障害のある10代から40代の女性たちが色とりどりの着物を身にまとい、ランウェイを歩きます。

参加した香帆さん(23)
「とても緊張したけど楽しかったです」

参加した杏菜さん(40)
「やっぱりオシャレってわくわくするから本当にいいなと改めて思いました」

参加した美海さん(22)
「これからもやりたことに挑戦していこうと思いました」

娘が伝える「あの日生きてくれてありがとう」

そして、藤井さんが莉子さんと一緒に着物を着てランウェイを歩く番に。着物を着た藤井さんの姿を莉子さんは特別な思いで見つめ、その思いを手紙に書いていました。

藤井莉子さん
「お母さんへ。母さんとこうやって2人で着飾って歩けたのが、とても嬉しいです。母さんが誰かの『できない』を『できる』に変えて、誰かの一歩を踏み出すきっかけを作っている姿を見ていると、自分も恐れず何かに挑戦したいと思えます。あの日生きてくれてありがとう。母さん大好きだよ。莉子より」

藤井佳奈さん
「私の12年目をこんな風にみんなが塗り替えてくれたことに、本当に感謝します。ありがとうございました」「本当にやりたいことなどをたくさんしていかなきゃ。人生一回切りって、一回は本当に死んでいたかもしれないから。やりたいことをしていこうって。自分のやりたいことやらんとね」

藤井さんの諦めない挑戦はこれからも続きます。