今、全国各地で、クマによる果物の食害が出ています。青森ではモモ、富山ではスイカ、山形・福島ではサクランボ、鳥取ではナシ。

広島でもナシが大変な被害に遭っていて、三次市の梨園では悲痛な声が上がっています。冬眠前でもない夏になぜこんなことが起きるのか、どう対策すればいいのか?まずは、現地を取材しました。
向かった先は、緑深い場所・・・ 地面には、たくさんの食べかけのナシ・・・
被害の情報が寄せられたのは、三次市作木町森山西地区。島根県との県境に近いエリアです。5軒ある梨園で7月以降連日、数百個単位で食い荒らされている、ということでした。
三上農園には、この日、食べ散らかされたばかりの跡が残っていました。
稲垣アナウンサー
Q。どのくらいの被害が出ている?
三上農園 三上早苗さん
「この木だけだったら30から40個ぐらいですかね。でも、もう全体で言ったらね、もう一晩に50、60って落とします」
Q。一晩でそんなになくなっちゃう?
「ええ、ええ、すごいです」

被害は8年ほど前からありましたが、これほど酷いのは初めてだといいます。
三上農園 三上早苗さん
「枝が折れて、(クマは)ここの上に座ってね、食べるんです」
「でも、うちらはまだ被害が少ない方かもわかりません。まだまだ、もっと酷いところがあるんですよ」
1晩で275個。「木が空っぽになる」「心折れるってもんじゃない」
すぐ隣の三上観光農園にも同じく食べ散らかした跡が…。
稲垣アナウンサー
「酷いですね」
三上観光農園 三上恵美子さん
「これまだ可愛い気な方よね」
Q。今まで1番食べられた時は一晩でどれくらい?
「数えたら、275。木が空っぽになるのを見て待ちよるような」
「今朝、今朝は5時半に見たんですよ。歩きよるクマを。歩いてるクマを」
地域にクマは2頭いるとみられ、一つ山を越えた先の大石農園では、今年初めて被害に遭いました。
大石農園 大石たつみさん
「毎日毎日、無くなるまで(クマは)きました。けさもこれ。ナシが無くなるまで来る、ということ」

丁寧に袋がけされて育てられているナシは、品種によって、8月下旬から10月にかけて順番に熟すため、先に収穫するわけにもいきません。
大石農園 大石たつみさん
「資材代とか。肥料代とかあるでしょ? そんなの全部払えるかどうかわからん。まぁ、心折れるってもんじゃないです。どうしたらいいんだろうと思います」
梨園に残されるのは、食べ散らかされた残骸と消化した後の・・・
犯人の痕跡はそこらじゅうに。
稲垣アナウンサー
「梨を食べた熊のものだとわかるんです?」
クマレンジャー 坂根憲昭さん
「梨の色ですよね。で、水分多いですから、ちょっとゆるめですよね」

クマレンジャーの坂根さんは、パトロールをしていたある日の朝5時、張本人とも出くわしました。
稲垣アナウンサー
「ガサガサガサッと暴れていて?」
クマレンジャー 坂根憲昭さん
「そう。もう人を見たらね、非常にクマも怖いんで、必死な状況でしたね」
梨園のすぐ近く。前日に設置されたばかりのイノシシ用の箱罠に入っていたのは、体長1mほどのツキノワグマでした。
イノシシ用の箱罠はこじ開けられて・・・クマは逃亡
ただ、イノシシ用の箱罠に間違って捕獲されたクマは、クマレンジャーであっても、勝手に処分することはできません。手続きのために一旦離れた隙に、クマは、箱罠を壊して逃げてしまいました。

このエリアには、クマ用の箱罠もありますが、今のところ捕獲はされず、連日のクマ被害が続いています。
もちろん、梨農家も手をこまねいているわけではありません。
梨農家が連日取り組む数々の対策は? そしてその効果は・・・?!
対策①音でクマを遠ざける?!
三上農園では、大音量のラジオを、ずっと付けています。
対策②臭いでクマを寄せ付けない?!
クマが嫌がる「臭い」で遠ざけようという作戦。作業する人の目がチカチカするほどの量の唐辛子や木酢液を枝の間にぶら下げています。市販の「害獣用の忌避剤」も足元に撒いたそうです。

対策③火で怖がらせる?!
また、夜には小さな焚き火で怖がらせる作戦や、1時間おきに花火を持ってのパトロール作戦などを展開中ですが…被害は連日続いています。
稲垣アナウンサー
Q。どうしたらいいんですかね?
三上観光農園 三上恵美子さん
「教えてください」
クマは「すぐ慣れる」。ではどうすればいいのか?
西中国山地のクマに詳しい動物生態学者に、この対策について聞いてみました。「音」や「匂い」、そして「火」で追い払う作戦の効果は…。
広島フィールドミュージアム 金井塚務代表
「効果ないと思います。ある要素だけを置いても全然ダメなんですよ」
理由は全て、「慣れ」なんだそうです。
「ある程度の効果はありますけど、すぐ慣れます。これだけ置いて、人がいないんだっていうのは、『別になんてことないよね』っていうんで慣れちゃう。どういう状況なのか判断する能力ってのは非常に高いんですよ」

取り急ぎの策としては、数千ボルトの電気柵を、くぐられないように設置することが有効、とのことでした。
広島フィールドミュージアム 金井塚務代表
「電柵を間隔狭くして、そうすれば、パチンときた時に、それは嫌がるでしょう」
なぜ多発? クマによる夏の食害
全国的にも相次いでいる夏の果樹の被害。金井塚さんは、クマが奥山を離れて里の近くに定着した結果だとみています。
広島フィールドミュージアム 金井塚務代表
「人目につかないで人里に近づいてくる時代がずっと20年ぐらい続いてたんです。で、それがもうお構いなしに、里へ出てくるクマが増えたっていうことですよ。じゃあ奥山になぜいないのかっていうと、奥山に食べ物がなくなってるんです。奥山はむしろ個体数減少」

広島県の調査によりますと、ツキノワグマの生息域は30年ほど前と比べて7割拡大し、個体数は倍増していると推定されています。しかし金井塚さんは、クマは増えているのではなく、生息エリアのドーナツ化現象が起きているとみています。
奥山を離れて周辺に向かう クマの「ドーナツ化現象」か?
広島フィールドミュージアム 金井塚務代表
「奥山での生息密度が低下して、生息する、出没する範囲が広がってるという。最悪の状況が現在なんだと。人の存在気にしないクマっていうのは確かに増えてるんです。だけど、絶対数で増えてるかっていうとそうじゃない。絶滅まで被害が続くという。だから、どっちにとってもいいことじゃないんですよ」

金井塚さんは、(1)高電圧・低電流の電気柵を張り巡らせるという取り急ぎの対策と共に、(2)里山資源を動物でなくヒトが使う仕組みづくりや、(3)奥山の豊かさを取り戻すハード面の整備といった、長期的な目標に向かって早急に取り組むことが必要だと話します。
また、これらを決して農家だけの負担にせず、行政が積極的に動くことが求められるということ。そして、今すぐ危機感を持って取り組まなければといけない、と厳しい表情を見せました。
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