原爆の悲惨さを伝える展示を子どもたちにどう見せるのか。広島の原爆資料館に新設される予定の「子ども向け展示」を巡って、去年から議論が巻き起こっています。

広島市の原爆資料館は、近年外国人観光客が増加し、昨年度の来館者数は過去最多を記録しました。一方で、修学旅行などで訪れる子どもたちが十分に見学出来ない課題に直面しています。

そこで新たに、修学旅行生などを対象とする「子ども向け」の展示を館内に設ける検討がはじまりました。自分事として考えられるように、子どもたちと同世代の、原爆で犠牲となった生徒の遺品や日記を中心に展示します。

議論を呼ぶ “悲惨な展示を子どもたちにどう見せるか”

その中で議論を呼んでいるのが「悲惨な展示を子どもたちにどう見せるか」です。原爆投下直後の傷ついた人たちの悲惨な写真などが展示されるエリアを壁で仕切って入口に注意書きの看板を設置。子どもたち自身に見るか見ないかを「選択」してもらう案が出されたのです。この議論の背景には子どもたちへの心理的配慮があります。

臨床心理学が専門の広島大学の上手由香准教授は「原爆の凄惨な絵であったり写真っていう、そのインパクトだけ残ってしまう」と指摘します。新展示検討会の委員でもある上手准教授は、来館した小学生を追跡調査。すると、1か月程度経っても、就寝前に思い出したり、夢に展示が出てきたりする児童が複数居ることがわかりました。

上手准教授は、子どもたちに“怖い”という感情だけが植え付けられ、原爆や平和について学ぼうとする意欲が低下するのではないかと懸念を示します。そのうえで、「もし怖かったら一旦見ないという選択をすることも権利として守られている。それだけで子どもたちの安心感が出てくると思う」と話していました。

慎重な意見を持つ委員も…

一方で、この「選択する展示」に慎重な意見を持つ委員も…

検討委員で唯一の被爆者、内藤愼吾さん(87)は「悲惨な資料をぜひ見てもらいたい。そのうえで核兵器の廃絶や平和をみんなで語ってもらいたい」と話します。内藤さんは6歳のとき爆心地から1.7kmで被爆。家族全員を原爆に奪われました。

内藤愼吾さん
「若い人が心理的な影響があってかわいそうだから『見なくてもいいですよ』のような表示は、絶対してはいけないと思っている」

凄惨な状況をその身で体験したからこそ、目をそらさずに悲惨な展示を見ることで、原爆の本当の恐ろしさを知ることができると考えています。

「選択制」どう思う? 原爆資料館の見学客に聞く

原爆資料館を訪れた人たちに、子ども向け新展示の選択制導入について意見を聞きました。

沖縄から来館した親子は
●父親
「途中で気分が悪くなったり怖くなったりした場合を考えたら、選択できる余地があった方がいいかもしれない。でも、学ばなければいけないものなので、見た方がいいと思う」
●娘(高校3年生)
「ショックもあるが、全部見た方が良いのかなと思うので、選択する必要はないと思う」

山形から来館した親子は
●母親
「小学生の時に“はだしのゲン”を観てすごくショックは受けたが『戦争は良くない』という思いがとても根底に残っている。ただ、あまりに幼い小学1年生や2年生だと、トラウマになるとは思う」
●娘(中学3年生)
「ちゃんと全部知りたいから、選択制は要らない」

大阪から来た親子は
●父親
「小さい子向けにショートカットできる道は作ったらいいかなとは思うけれど、なるべくそのまま伝えた方がいいんじゃないかな。怖かった?」
●息子(小学4年生)
「怖かった。皮膚が剥がれて黒くなっていて。僕も戦争の頃に生きていたら死んでいるかもしれないから、怖かった」

東京から来た親子は
●母親
「うちの子供が怖がってしまって、途中で見れなくなってしまった。それでも“戦争の怖さ”や“核兵器は良くない”ということは認識してくれたので良いとは思う。ただ、やはり夜泣きしないかとかは心配」
●息子(小学3年生)
「怖かったけど、まあなんとか行けた」
●母親
「最初はちゃんと1個ずつ見れていたが、途中から素通りしていく感じで。子どもたちが、最後の白血病とか放射線の被害の展示をちゃんと見られていないので、もう少し優しい展示があってもいいのかなと個人的には思った」

“見て欲しい”と“トラウマ避けたい” 両立目指して…

“被爆の実相を見て欲しい”という願いと、“トラウマを植え付けない”配慮の両立。6月の検討会では「不安を感じる人は、先生やボランティアスタッフに相談してみましょう」と、子どもたちの心に寄り添いつつも、見ることが前提の注意書きを掲示することが提案されました。

内藤愼吾委員(被爆体験証言者)
「『ほかの展示物を見て済ませなさい』というような表示は賛成ではなかったのですが、今回の表現なら良いと思います」

次の世代に、被爆の実相をどう伝えていくのか…。模索が続いています。