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11年前、交通事故により突然、首から下が麻痺した藤井佳奈さん(50)。「娘を抱くこともできなかった」。絶望から、厳しいリハビリを経て、車の運転ができるようになりました。行動範囲が広がった彼女の目に、今度は社会が抱える様々な課題が見えてきました。ここから、彼女の新たな挑戦が始まります。
(前編「突然の事故で首から下が麻痺「娘を抱きしめられない」絶望の淵から娘の言葉を力に立ち上がった母の11年」から続く。)
11月下旬、広島市の大学で開かれた講演会。オンラインで参加した藤井さんは、学生たちに自らの経験を伝えてました。事故後、リハビリを経て行動範囲が広がった藤井さんですが、社会の中で新たな課題も見えてきました。

車椅子専用駐車場にはポールが設置されていることがあり、一人ではそれを移動できないことがありました。またスーパーでの買い物では高い棚の商品が取れないという問題もありました。藤井さんは、学生にこう問いかけます。
「皆さんはこういった困っている人を見かけた時、声をかけた経験ありますか?この時に声をかけて欲しい言葉が一つあります。
『何かお手伝いすることありますか?』
この一言だけですごいんです」
飲食店に予約する際も障壁がありました。電話で「車椅子で伺うのですが」と言うと、「段差があるから車椅子は無理です」「スペースが狭いので、車椅子の人はちょっと…」と断られることが多かったといいます。
「こういうふうに、私みたいに悲しい気持ちになっている人たちがまだたくさんいるんじゃないか」
藤井さんは様々な社会活動を始めるようになります。

「グリーンバード」という全国的なゴミ拾い団体があります。藤井さんはグリーンバード岡山チームの活動に娘と参加。その時、藤井さんは車椅子の人がゴミ拾いをする姿を見せることで、「誰でも参加できるゴミ拾い」になるのではと考えました。
2023年9月、藤井さんはチームリーダーとして「グリーンバード福山チーム」を立ち上げました。現在は毎回20~30人程度が参加し、福山駅前を中心にゴミ拾い活動を行っています。
この活動は単なるゴミ拾いではなく、コミュニケーションの場でもあります。「今日は私の車椅子、誰か押してくれますか?」と学生に声をかけ、車椅子体験をしてもらいながら交流します。発達障害や知的障害がある子どもたちも参加し、様々な人が自然に交流できる場になっているのです。
「インクルーシブ」は「共に生きる」という意味で、特別扱いではなく自然に一緒にいられる状態を指します。藤井さんは福山市から春日池公園を「インクルーシブ公園」にする計画に参加してほしいと依頼を受けました。藤井さんは「みんなで遊んでもらいたい」と、車椅子の人も一緒に遊べる砂場やブランコの設置や、ボコボコだった車椅子用駐車場から公園までの道の修理を提案しました。
また、尾道市瀬戸田町のサンセットビーチで「インクルーシブビーチ」の体験会開催にもプロジェクトリーダーとして携わりました。青いシートを砂浜に敷き、特殊な車椅子「ウォータースイング」や「ヒッポキャンプ」を使うことで、障害のある人も海に入ることができます。
「障害を持ったお子さんの親たちは、海に入ることを諦めているんです。なぜなら、障害ある子には親のケアが必要だから、こういう環境がないと海に行くことができない。でも、環境や人の手があれば、その家族も行くことができる」

藤井さんは活動の中で、自身が感じた「生きづらさ」を同じように感じている人たちがいることを実感します。そして、2025年7月、NPO法人「笑幸やか(にこやか)」を設立しました。「みんなで笑って幸せ、笑顔と幸せをつなぐ」という意味を込めた名前です。そして、藤井さんは今、「諦めない挑戦!あきらめまーや!」を多くの人に伝えています。
「人は声をかける勇気一つで誰かの未来を変えられる」と語る藤井さん。彼女の「諦めない」姿勢は、周囲の人々を巻き込み、様々な活動へと広がりました。
「できなくなったことを数えるより、できたことを一つ一つ数えていこうと思って頑張ってきました」という言葉に、藤井さんの前向きな生き方が凝縮されています。
「経験を伝えられることが、その情報が誰かのきっかけになる。私のこの口だけは事故をしても動いてた。口による“口動”が、誰かの動く“行動”になって、誰かの幸せである“幸動”に繋がると思っています」
事故で大きな転機を迎えた藤井佳奈さん。その後の「諦めない」挑戦は、彼女自身の可能性を広げるだけでなく、多くの人々に新たな視点と希望をもたらしています。
(前編「突然の事故で首から下が麻痺「娘を抱きしめられない」絶望の淵から娘の言葉を力に立ち上がった母の11年」から読む)
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