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これは戦後、お好み焼を広島のソウルフードに育て上げた“みっちゃん”こと井畝満夫さんの物語である。
80歳を前に、跡継ぎ息子の雅一(まさかず)さんを亡くしたみっちゃん。その落ち込みは相当のものでした。店に立たなくなりました。好きな麻雀もやめました。生きる気力をすっかりなくしたようでした。
みっちゃん)「わしの人生はなんじゃったんか……最後の最後にこんな仕打ちが待っとるとは……」
頭に浮かぶのは、息子の嬉しい言葉です。
雅一)「おやじ、俺がこの店の看板を守っていくけえ。井畝満夫が作ったお好み焼を、もっともっと多くの人に広めていくけえ」
自分の作ったお好み焼の味を守っていく。井畝満夫という名前を語り継いでいく。その言葉にどれだけ救われ、支えられてきたことか。
みっちゃん)「雅一、わしはもうダメだ……おまえがおらんようになったら、もうなんもないわ……」
父のお好み焼を後世に伝えることに誰よりも熱心だったのが雅一さんでした。雅一さんは最期、みっちゃんの愛弟子の上川学(かみかわ・まなぶ)さんに「あとはたのむで」という言葉を遺していました。
みっちゃん)「雅一、こんなわしにまだできることはあるんか? こんなおいぼれに、おまえはまだ何かさせようとするんか……?」
(ざわめきが鎮まり、かしこまった雰囲気)
司会)「それではこれより『お好み焼みっちゃん総本店』二代目・井畝満夫襲名式をはじめさせていただきます」
令和3年3月3日、「み・み・み」でみっちゃんの日、式は華々しくはじまりました。料理の世界では珍しい襲名制度。みっちゃんの下で35年間修業した上川さんが「二代目・井畝満夫」を名乗ることになったのです。
司会)「まず初代の象徴である帽子、そして七十数年の魂のこもったヘラが渡されます。このヘラがあって初めて『お好み焼みっちゃん総本店』は次の時代へ移るわけでございます。ヘラが渡されます。ただいまをもちまして晴れて二代目・井畝満夫、襲名でございます!」
襲名式にはお世話になった方々が見届け人として参加しました。
お好み焼を広めるため共に歩んだオタフクソースの佐々木尉文(ささき・やすふみ)さんがいます。一緒に広島のお好み焼を盛り上げた、お好み屋仲間・八昌、麗ちゃんの姿もあります。「そば肉玉」には欠かせない磯野製麺さんも。みんなこの瞬間を目に焼き付けようと、感極まった表情を浮かべています。
最後は二代目・上川さんの作るお好み焼の実食です。
司会)「いま一口食べられます……どういう感想が出ますか。いま確かめるように、ゆっくりと味わっていらっしゃいます。果たしてどんな感想が出ますか……どうですか?」
みっちゃん)「おいしい……おいしいです」
ここにお立合いのみなさま、改めて、改めて盛大な拍手をお願いします!
■作・演出 清水浩司
■朗読 二階堂 和美


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