「ウサギの島」として知られる広島県竹原市の大久野島についてです。島に生息するウサギを蹴って死なせるなどしたとして、男が逮捕された事件は全国に衝撃を与えました。今回の事件を受けて専門家からは、ウサギとヒトの「距離」やエサのやり方を問い直す声も上がっています。
竹原市の忠海港から船でおよそ15分の場所にある、大久野島。島内雑観周囲4キロの小さな島ですが、野生のウサギが500匹以上生息し、観光資源となっています。
そんな「ウサギの島」で起きた事件が全国に衝撃を与えました。
滋賀県大津市に住んでいた元会社員の堀田陸被告(25)。ことし1月に大久野島でウサギ1匹を蹴って死なせたほか、ほかの4匹の口にはさみを入れるなどしてけがをさせたとして動物愛護法違反の罪で起訴されました。
堀田被告はその後、別の3匹の骨を折るなどしたとして追送検されていて、警察の調べに対し「ウサギを100匹ぐらい虐待した。虐待したときの反応を見たかった」などと供述しているといいます。
大久野島は瀬戸内海国立公園の一部として環境省が所管していますが、事件を受けて島の安全確保に苦慮しています。
環境省もパトロール体制を強化していますが、限界もあるといいます。中国四国地方環境事務所は、「多くの目でいち早く異変を察知して共有していきたい」としています。
今回の事件を巡って、地球温暖化やごみ問題など環境保全を専門とする呉工業高等専門学校の小倉亜紗美准教授は島の現状を問題視しています。小倉准教授は、大久野島に生息するウサギと島の生態系についても研究しています。
小倉亜紗美准教授
「ウサギは柔らかい葉っぱとか好きなんですが、私たちが調査していたら『ばりばりばり』って音が聞こえてきて。何だろうと思ったらアメリカフウというすごく硬い葉っぱ、しかもバリバリになった落ち葉を食べているのを目撃するなど、本当に草が足りていないと感じました」
小倉准教授は、観光客が持ち込むエサを食べないと、ウサギが生きられない環境になっていることが事件の背景にあると指摘します。
小倉准教授は、大久野島のウサギについて研究する中で、島を訪れる観光客とウサギの数に密接な関係があることに注目しました。
竹原市によりますと、大久野島に年間に訪れる観光客は、SNSでウサギの島として知られ始めた2015年に約25万人となっています。その年を境に急激に増えてきて2017年には40万人以上に達しました。
その後、2020年以降コロナ過に入ると、観光客の数が減り、2020年に約28万人訪れていた観光客は、2021年に約15万人になっています。
2022年はさらに少なくなり、約13万人にまで観光客が減少していました。今は少しずつ観光客も戻りつつあり、2024年には約19万人となっていますが全盛期の半分以下となっています。
次に、ウサギの数です。環境省と大久野島ビジターセンターによりますと、2006年に約300匹のウサギが確認されています。
2013年には約750匹確認され、2018年には約900匹のウサギが確認されています。
コロナ過の2020年には約584匹、2023年には約500匹確認され、2018年から2023年の5年間で約400匹近くのウサギが減少したことになります。
観光客の人数の推移とウサギの数の推移から、観光客が約40万人以上いた2017年では、翌年の2018年にウサギが約900匹確認されています。
コロナ過で観光客が減少し、年間の観光客数が約13万人となった2022年、翌年には、ウサギの数が500匹となっています。このことから観光客の増加とともにウサギも増え、コロナ禍で観光客が減少するとウサギも減っていることがわかります。
小倉准教授は、エサを与える観光客の数がウサギの数に影響していると指摘します。
また、観光客が持ち込むえさが必須の状況であるなら、ウサギの健康面にもよくないといいます。
呉工業高等専門学校 小倉亜紗美准教授
「観光客は、土日や休みにたくさん来る。休日はたくさん餌があって、でも平日はあまりない。食べ物の量の増減が激しいので、あまり食べ物が得られない時期と食べ物が山ほどある時期がある。生き物にとったら、あまり良くない状況なのではないかと思います」
ことし1月に現行犯逮捕される直前に撮影された映像に堀田被告の姿が捉えられていました。その姿は、堀田被告が、ニンジンを使ってウサギを誘っているように見えます。この日は、観光客が比較的少ない平日でした。
大久野島のウサギには元々、自然に生える芝などの草しかエサがありませんでした。小倉准教授は、観光客によるエサが全くない状況では、現在のウサギのおよそ半数、200匹から300匹程度しか生息できないのではないかとみています。
呉工業高等専門学校 小倉亜紗美准教授
「本当は島にある食べ物だけでウサギが生きられることがベスト。ですが、この島自体が観光で成り立っていることもよく分っています。そのため、現在の誰でもどこでも餌をあげれる状態から、餌の量を管理するという方向にもって行って、段階的に少なくしていくということが一つ必要なことと考えています」
観光資源として島にとっては欠かせないウサギ。今後、大久野島はウサギや観光客を守るための防犯対策やウサギが観光客の餌を頼りしなくてもいいような、安定して生きられる餌場の供給などが求められます。
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