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10歳の少年が初めて体験した家庭のお正月 「週末里親」 過ごす時間は少なくても…築いていく家族のかたち

「里親」と「里子」。事情があって施設で暮らす子どもが、一時的に「里親」の家庭で一緒に暮らす家族のかたちです。記者が、ある家族が過ごす「初めての正月」に密着しました。

居間のこたつを、家族4人が囲んでいます。机の上には、高く積まれたバランスゲームの「ジェンガ」が。

「ちょっと傾いてない?それ取っても大丈夫?」
「あぁ~!崩れた!」
「勢いよく取ったねえ」

「ジェンガ」が崩れ、緊張した空気が一気に和らぎました。家族でのんびり過ごす、お正月の一幕です。

はつらつとして笑顔が印象的な母・あきこさん(59)と、
おだやかな父・ともやさん(58)、
おしゃべりが好きな祖母のけいこさん(92)。

そして小学4年生のかずまくん。
かずまくんは記者がいることに緊張しているのか口数は少なく、物静かな印象です。(全員仮名)

普段は、広島修道院で生活をしているかずまくん。施設では、時間があれば友達と野球をするなど、運動が得意で活発な様子をのぞかせます。

プロ野球・広島のカープが大好きで、選手の話になると少し口数が増えます。好きな選手は「菊池選手」で、来シーズン期待する投手は「森下投手」だと教えてくれました。

手前は大好きなカープのトランプ 4人で「ババ抜き」をして遊んだ

物心ついたときから広島修道院で暮らすかずまくんにとって、「家庭」での生活はなじみがありません。

▼国内に4万人以上 施設で暮らす子どもたち
広島修道院には、事情があって親元を離れている100人あまりの子どもたちが、共同で生活をしています。かずまくんは、学年の違う小学生6人と1つの居住スペースで生活をしています。室内にはリビングや台所に加えて小さな部屋が3部屋あり、寝るときは1部屋2人づつに分かれて寝ています。6人兄弟のようなイメージで、職員が生活のケアなどをしています。

施設で暮らす子どもたちの背景は様々です。突然の親の事故や病気、ネグレクト、虐待、妊娠中の薬物摂取、受刑者の出産…。児童相談所から「家庭で過ごすことが適当でない」と判断された子どもたちが、施設で暮らすことになります。

ただ、広島修道院の山村拓哉院長は、「子どもは家庭で養育された方が良い」と話します。

山村院長「子どもにとって養育者は『ずっとこの人が私のことを見てくれる』という安定した見通しの中で育つ方が良いんです。でも施設で育つと職員体制が変わったりということがありますし、そもそも集団で育つので子ども1人1人の思いがくみとりにくいし実現しにくい。」

里親の元での生活は、特定の大人との関係を築くことができます。

里親制度と養子縁組は違います。養子縁組は法的にも親子関係となる一方で、里親制度はあくまでも「預かる」制度。子どもが成人して自立できると判断されると、養育期間は終了となります。また、子どもとの関係がうまくいかずに関係を解消する「委託解除」となることも少なくありません。

里親にも様々な種類があります。長期間預かる「養育里親」の他に、かずまくんのように週末や長期休みのみを里親の元で過ごす「週末里親」があります。

「週末里親」は、施設で生活を続ける子にとって「家庭生活が体験できる」点にメリットがあります。将来自分の家庭を持つときに、家庭での生活を知っているか知らないかでは大きな差となります。

かずまくんは月に1度、土日をあきこさん夫婦の家庭で過ごしています。

▼夫婦が里親になったわけ
ともやさんとあきこさんには、2人の間に生まれた長男がいます。子どもが大好きなあきこさんは、きょうだいがほしいと考えていましたが、長男を出産したとき、2人は30代後半。体力的にも厳しく諦めざるをえませんでした。

あきこさんが里親制度を知ったのは、長男が小学校3年生のときです。テレビで知って「やってみたい」と強く思ったあきこさん。長男が二十歳になるまで待って、家族に相談。ともやさんも長男も受け入れてくれました。

里親になるための研修などを経て、かずまくんとの交流が始まったのは、2023年の秋でした。

始めは日帰りで1日を共にするだけでしたが、1年が経ったころから1泊するように。そして今回、冬休みに初めて3泊の長期滞在に挑戦したのです。

▼口数少ないかずまくんの「サイン」
あきこさん
「いつもは朝起きてきて、『おはよう』って私が言っても返事がないので『おはようは?』って聞くんですけど、2泊目の今日は『おはよう』って自然と返ってきたので嬉しかったです。」

ささいな変化ですが、かずまくんが生活になじんだサイン…。あきこさんは嬉しそうに話します。

家庭で過ごすお正月もかずまくんにとっては貴重な体験です。元旦の食卓には、くわい、黒豆、煮染め、栗きんとん、紅白なます…と、色とりどりのおせち料理が並びました。

あきこさん提供

一方でこれまで食べてきた施設のおせち料理は、栗きんとんやなますなどにウインナーや焼き鳥を並べた「子ども向け」のもの。かずまくんは「家族のおせち」を、珍しそうに見ていたといいます。

あきこさん
「『くわいは芽が出るようにって食べるんよ。』とか、説明ができるものは説明したりして。紅白なますは酸っぱいから嫌いな様子で、煮染めも野菜が多いから嫌だったみたいで残していました。手作りだったのに!(笑)でも、夜はカレーにしたら、おかわりまでしてくれたんです。完食でした。」

口数の少ないかずまくんから、「おいしい」は聞けていないと言いますが、完食やおかわりが美味しく食べたサインです。

▼かずまくんが示す「大人への関心」と不安
かずまくんの交流が始まってから1年あまり。「距離が縮まったかは分からない」と話すあきこさんですが、大人たちの様子に関心を持っていることが伝わってくるといいます。

あきこさん
「寝るときにかずまくんが先に歯磨きをして、『先に部屋行っとき』って言っても行かないんですよね。私風呂上がりで髪を乾かして歯磨きして化粧水付けたりして寝ようかなと思うので、ちょっとまってね、クリーム付けてくるからって言ったら付いてきたりして。『かずまくんもクリーム付ける?(笑)』って言ったら『いい』って。(笑)何するんだろう?ってじーっと見ているんです」

夜寝る前に部屋で1人になると、あきこさんの名前を呼ぶと言います。

「部屋から呼ぶんです。1人の部屋でベッドにぽつんといるのが寂しいみたいで。寂しいのか、部屋にちゃんと帰ってきてくれるか不安になるのかな。呼ぶから、『はいはい~!』って行くんです。」

施設では、友達と同じ部屋で寝食を共にします。「1人で部屋に居ることに慣れてないのかな」と、あきこさんは話します。

▼過ごす時間は少なくても…子どもへの思い
あきこさんは、口数の少ないかずまくんには自分の気持ちを伝えられるようになってほしいと考え、寝る前に、絵本を読んでから寝るといいます。

あきこさん
「『絵本選んで』っていったら2,3冊、多いときは5冊選んでくれて。やっぱり自分の気持ちを将来的には人に伝えられるようになってほしいと思って。それだけは、長男にもずっと思っていたので。」

長男に対して抱いていた思いを、かずまくんにも重ねます。

今は月に1度の休日のみを共に過ごす関係ですが、かずまくんのペースに合わせて関係を築き、一緒に過ごす時間が増えていけばいいと考えています。

じっくり時間をかけて、「かずまくんとの家族のかたち」を作っていく覚悟です。

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