「14.90歳」…。この数字は飼い犬の平均寿命です。この10年あまりで寿命はおよそ1歳伸びているといいます。高齢化に直面しているのは人間だけではありません。“犬の高齢化”と私たちとの関わりについて考えます。
ZOOM太郎(ズムタロウ)くん
松岡昌宗さん
「(Q.このあたりはよく来る?)
はい。散歩コースですから。最高の楽しみ。」
松岡昌宗さんと愛犬のZOOM太郎(ズムタロウ)くんです。カープ好きの家族がマツダスタジアムにちなんで名付けました。毎日の散歩が生きがいです。
松岡昌宗さん
「我が子と同じ。孫と一緒くらいかわいい。ものを言わないので余計かわいい。(溺愛ですね?)はい。みんなそうだと思う。」
松岡さんとズムタロウくん
活発なZOOM太郎(ズムタロウ)くんですが、現在14歳。もう「老犬」と呼ばれる年齢です。
ペットフード協会によりますと、飼い犬の平均寿命は「14.90歳」。2010年に比べて1.03歳延びています。室内飼育の増加や獣医療の発達などが要因です。
広島市にある動物病院を訪ねると…。
診療に訪れた女性
「愛犬は12歳になる。もう年なので…」
診療に訪れた男性(愛犬13歳)
「愛犬が歩けなくなった。足を引きずっている」
konomi動物病院 栗尾雄三院長
「この辺が曲がっているところが痛そう。人間も高齢者が杖をついて、腰を曲げている。あれと同じ。腰の神経の通りをよくするために治療している。」
犬が年を取るスピードは人間よりも早いと言われています。
konomi動物病院 栗尾雄三院長
「犬の10歳は人間でいうと60歳くらい。10歳を超えると一気に体が弱って病気の症状が出てくる」
寿命が延びたことで、犬が病気などと付き合う時間も長くなりました。人間も同じように高齢化する中で、ある問題が生じています。
konomi動物病院 栗尾雄三院長
「『老老介護』ではないが、高齢者が高齢犬を飼っているケースが多い。飼い主がいつ入院してもおかしくない、犬を飼えなくなるかもしれないという状況は、世の中で絶対に多い」
栗尾院長は「犬より先に飼い主が亡くなるケースは珍しくない」と話します。
konomi動物病院 栗尾雄三院長
県動物愛護センターなどでは、原則、飼い犬は引き取っていません。また、高齢な犬は介護リスクなどから里親も見つかりにくいと言われています。
konomi動物病院 栗尾雄三院長
「人だと老人ホームがある。犬にもそういうものがある。あって当たり前になればいい」
konomi動物病院は行き場を失った高齢犬を引き取って、生涯世話をする「老犬介護」を5年前から続けています。引き取った犬たちは病院の2階で暮らし、栗尾院長やスタッフは家族のように接しています。
シロちゃん(推定14~15歳)
konomi動物病院 栗尾雄三院長
「この子も老犬介護で預かっている。シロちゃんとクロちゃんは10歳弱で預かったので14~15歳くらいになる」
この2匹を飼っていた男性は1人暮らしで病死。遠方や高齢などを理由に、親族などで引き取り手が見つかりませんでした。
病院は親族から犬の所有権を譲り受け、食事や散歩のほか、トリミング・病気の治療もしています。
konomi動物病院 栗尾雄三院長
「シロちゃん・クロちゃんは預かってから子宮の病気になった。うちの勤務医に手術してもらって元気になった。手術の勉強にもなっている」
老犬介護の利用者は犬の年齢や体重などに応じて設定された料金を支払い、病院が最期まで看取ります。中にはこんな犬も…。
konomi動物病院 栗尾雄三院長
「1年前はがんばって歩いていたが、今はずっと寝たきり。
(Q.足をバタバタしている理由は?)
起き上がりたいけど、上手くできない。私たちに愛想を振りまきたい。」
エルモくん(17歳)
ミニチュアダックスフンドのエルモくんは17歳。筋力が衰えて寝たきりになり、床ずれで皮膚も裂けています。食事やトイレなど日常生活も人の助けが必要です。
konomi動物病院 上原瑛真さん
「エルモくんは口が小さいので、小分けで団子みたいにしてあげる。上体を起こして、食べさせるようにしている」
食事は1日3回。エルモくんの皮膚が痛くないようにタオルでクッションを作り、スタッフが1粒ずつ食べさせます。
konomi動物病院 上原瑛真さん
「寝返りを自分でうてないので、人間がやってあげないといけない。常にそれをしてあげるのは、お年寄りは難しいと話を聞く」
日々の老犬の世話は、スタッフのスキルアップに繋がっています。
konomi動物病院 上原瑛真さん
「長期間の付き合いになるので、接し方など勉強になる」
konomi動物病院 鋤田詩乃さん
「毎日が楽しいので最期まで精一杯一緒にいて、良い思い出を作りたい」
「老犬介護」の利用者は犬と面会ができます。エルモくんを預けている嶋田愛さんです。
老犬介護利用者 嶋田愛さん
「きのうエルモの誕生日だった。プレゼントは(犬用の)もみじ饅頭」
konomi動物病院の「老犬介護」は終身制のため、一度犬を譲渡すると元の家庭には戻れません。
老犬介護利用者 嶋田愛さん
「エルモ…。ガリガリに痩せたじゃん…食べられる?食べた。よかった」
母・和美さんとエルモくん
エルモくんは嶋田さんの母親が1人で飼っていた犬でした。母親は5年前に急死し、嶋田さんが急遽引き取ることに。しかし…。
老犬介護利用者 嶋田愛さん
「母が亡くなってショックだったのか、トイレもできなくなった。朝晩が逆転して夜中に吠えて、昼間にずっと寝ていた」
嶋田さんは仕事や育児を1人でこなしながら、エルモくんの世話を1年間続けました。
老犬介護利用者 嶋田愛さん
「彼もストレスだったのか、尻尾の毛が全部抜けてしまった。罪悪感や心苦しさがなかったと言えば嘘になるが…。私も、子どもも、エルモも一番幸せに生きていける方法だと思った」
嶋田さんは「老犬介護」の利用を決めました。
老犬介護利用者 嶋田愛さん
「また来るね。また会おうね」
県内でこうした「老犬介護」の施設はあまり多くありません。預かった犬の寿命が見通せないことや、施設の負担が大きいことなどが要因です。
konomi動物病院 栗尾雄三院長
「あくまでうちの空いている設備を利用してやっている。10件問い合わせがあって受け入れているのは1~2件。お断りをせざるを得ない。設備的に無限に預かれる訳じゃない。」
栗尾院長はこれから犬を飼う人に対して、「15年~20年先まで責任を持って飼えるのか」を改めて考えてほしいと訴えます。
その上で、行き場を失った老犬たちのセーフティネットの整備も必要だと指摘します。
konomi動物病院 栗尾雄三院長
konomi動物病院 栗尾雄三院長
「今回の特集テーマが老犬介護であるとするなら、これが当たり前であるようになってほしい。こういう施設が増えて困ったときには、問い合わせ先が増えればいいなと思う」
老犬介護の利用者が共通して話していたのは、「犬より先に飼い主が亡くなるケース」を想定できていなかったということです。
ほとんどが突然死のケースで、犬を引き取る準備と知識が不足していたとふり返っていました。
それぞれの家庭でできることは
▽15年~20年先まで自分の責任で飼えるのか?
▽「万が一の場合は、誰に引き取ってもらうのか?」
そこを考えることだと思います。
人と犬が高齢化する社会で、「飼い主の責任」をあらためて考える必要がありそうです。
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