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トレーラーの鉄板が落下し夫が乗った車を直撃 ある日突然、被害者の遺族になった妻「必死に踏ん張って生きてきた」時間が経っても癒えない悲しみ 今求められる被害者支援とは 

松本里奈さんは、12年前に発生した事故で、突然に幸せな生活と夫を奪われ、犯罪被害者となりました。

「これほど罰を受けるような生き方を主人はしてきただろうか。私がしてきただろうか。どうしてこんな思いをしなくちゃいけないのだろうか。本当に毎日毎日考えていました」

それでも、必死に働いて生きていかなければなりませんでした。松本さんは、そんな被害者を支える支援や制度が必要だと訴えています。

2012年12月25日の朝、広島県東広島市で、走行中のトレーラーから落下した鉄板が対向車線の乗用車を直撃…。乗用車に乗っていた2人が亡くなりました。この事故で夫・康志さん(当時45)を亡くしたのが松本さんでした。

直撃したのは1枚800キロの鉄板15枚…。積み上げられた鉄板は、たった一本のワイヤーロープで括られていました。運転手が正しく固定していれば…。会社が指導・監督していれば、防ぐことのできた「事件」でした。

「奪った命、傷つけた人、傷つけたもの、やり直しができない被害者や遺族を決して忘れないでほしい」

17日、松本さんは山口県で加害者の更生を支援する保護司に、初めて自身の体験を語りました。訴えたのは、事故からこれまで懸命に生きてきた被害者の現実です。

松本里奈さん
「(加害者が)矯正施設の中でいろんなものに守られて更生の教育などを受けている中、その年月、被害者は外で自分たちの力で必死で踏ん張って生きていることを知ってもらいたいです。本当にこの期間というのは被害者を助けてくれる制度はありません」

そんな中、松本さんが被害者支援の新たな一歩になればと感じている制度があります。

2023年12月から全国で始まった『心情等伝達制度』です。犯罪被害者や遺族の気持ちを刑務所などの職員が聴き取り加害者に伝えるもので、希望すれば、加害者の反応や答えを書面で知ることができます。これまで、服役中の加害者に被害者が思いを伝えられる制度はありませんでした。

法務省によりますと、12月20日時点で全国では113件、中国地方では10件の思いが伝達されました。心情を伝達した被害者からは「被害弁済をしてほしい」「反省・謝罪をしてほしい」「収容施設で何を考え、何を学んでいるのか知りたい」のほか、「一生許すことができない、更生は期待していない」などの声が聞かれたということです。

松本里奈さん
「すごくいい制度が始まったなと思いました。服役を終えて、罪を償ったで終わってしまう人(加害者)が多いと知る中で、まだ服役中に被害者の思いを伝えるのはすごく大事。出所すれば生活があるので事件・事故にだけ向き合ってはいられないけれど、矯正施設の中では向き合うことに集中できる。加害者側にはそいういう時間だと思ってほしい」

一方で、『心情等伝達制度』を利用した被害者をサポートする仕組みの必要性も指摘しています。

松本里奈さん
「利用した方の体験談を聞くなかで、被害者が心情を伝えたときに、必ずしも望むリアクションが返ってくるわけではないこともある。その場合、さらに二重に傷ついてしまう。それをサポートする人がいなければ、また被害者が一から踏ん張らないといけないのはしんどいなと思います」

松本さんも、法務省が2007年から実施している、仮出所などで保護観察の対象となった人に心情を伝達する制度を利用していました。加害者側の保護司に面談して思いを伝えてもらったといいます。

松本里奈さん
「その時に一番伝えたのは、直接謝罪に来てほしいということ。あなたは主人の顔も分からないかもしれないから。ぜひ、一度手を合わせてほしいと」

しかし、12年経った今も加害者から謝罪の言葉はありません。

さらに、改善されつつある被害者の支援は、十分ではないと感じています。

松本里奈さん
「日本の中でも、どこで被害にあったかで支援される度合いが違うというのが現実。この県ではこういう支援があったけれど、別の県の人は支援がないなど格差が日本全国でもあるし、県内でもある」

被害者が受けられる支援の”地域格差”です。
警察庁によりますと、ことし、犯罪にあった人やその家族を支援する『犯罪被害者等支援条例』は全ての都道府県で制定されました。しかし、市や町レベルでの制定は半数にとどまっているということです。広島県内でも見舞金の支給や転居費用の助成などを定める条例の制定は、広島市や呉市など14市町と全体の半数余りです。(※2024年4月時点)

松本里奈さん
「私たちはどんなにしんどくても自分たちで働いて、食事を用意しないと、服を買わないと…。裁判の打ち合わせや準備のためにも多額の費用がかかりましたが、それも自己負担です。被害者が自分で動かないと誰も守ってくれないという現実をもっとたくさんの人に知ってもらいたいです」

ある日突然、交通犯罪によって一家の大黒柱を失い、子ども2人との生活となった松本さん。それでも、必死に働いてご飯を食べて、日常生活を取り戻そうとするしかありませんでした。誰もが突然、被害者になる可能性があり、決して他人事に感じてほしくないと話します。

松本里奈さん
「被害者は特別な人だけがなるという意識が抜けきらないのだろうなと思います。普通に生活している中で、ある日の(事故を知らせる)電話で突き落とされるのは自分が経験してるから。本当に他人事ではないのですよと多くの人に知ってもらいたい」

事故当時高校生だった松本さんの長女も、現在の胸の内を教えてくれました。

松本さんの長女(事故当時高校生)
「正直、12年経っても事故が現実だったとは思えていないので、未だに父が死んだ実感はありません。最初の数年は玄関が開く音がすると、『あ、帰ってきた』と無意識に思ったこともありました。

もう二度と会えないんだと頭で分かっていても、なぜかまた会えるような気がしているので、やっぱり私は父が死んだことを12年経った今でも受け入れられていないのだと思います。認めたくないという感覚ではなく、本当にそれが現実だったと理解できていない感覚です。

周りはもう12年経つんだね、と言うけれど自分にとって12年は一瞬でした。事故の日のこと、病院に駆けつけた時に見た光景やその時に自分が抱いた気持ちなどは今でも昨日のことのように思い出せます」 

※次のページに続く

松本さんの長女(事故当時 高校生)
「12年も経てば、大抵の人間は成長するし周りも当たり前のように自分中心の、自分のための人生を歩んでいくのに、自分だけがずっと子どものまま取り残されたような気持ちになります。
何度気持ちを切り替えようとしても、ずっとその日のまま、その時の自分から抜け出せないような感覚になって、自分が惨めに思えます。父が生きていたら自分の人生はもっと違っていたのかもしれない、という思いを抱いてしまうことが多々あって、それが辛いです。

自分の努力不足で未熟なまま、歳だけ大人になってしまったのにそれを事故のせいにしようとしている自分が許せないと思います。そもそも、事故が起きなければ、こんな感情を抱かなくて済んだのに、とも思ってしまいます。

クリスマスだから、25日だから、とその日だけ特別な感情を抱いたりすることはなく、12年間ずっと毎日、心の底にそういう感情があります」

時間の経過とともに感情に蓋をすることができるようになっても、味わった絶望や悲しみが完全に癒えることはありません。松本さんも、命日になると“夫がいなくなった事実”を突きつけられるといいます。それでも、自分たち遺族と同じような思いをする人が二度と出てほしくないと自身の体験を語り続けています。

松本里奈さん
「被害者になるかならないかは選べない。でも**“加害者になるかどうかの選択は自分自身ができる”ことを多くの人に伝えたい。**日常を失ってから気づくのではなく、日常を失う前に…手のひらにまだある状態の時に、年齢や立場でできることは違うけれど考える機会をもってほしい」

トレーラーから落下した鉄板が乗用車を直撃 2人死亡 夫を失った女性が訴える“被害者支援の重要性”

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