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「黒い雨」の正体に迫る 原爆投下後に降った雨の跡残る金屏風 研究進む 広島

こちらの金屏風は、2年前に広島市の原爆資料館に寄贈されたものです。79年前の原爆投下後に降った「黒い雨」の跡がくっきりと残っています。

この金屏風を使って、未だ分からないことが多い「黒い雨」を解明しようという研究が動き出しています。

  ◇  ◇  ◇

「黒い雨」の跡が、無数の筋となって残る金屏風ー。

京都大学複合原子力科学研究所 向井中 研究員
「この中に入っているのが『金屏風片』です」

小さく切り取ったその一片から「黒い雨」の “正体” を探ろうという研究が進んでいます。

金屏風は2年前、原爆資料館に寄贈されました。爆心地から3.6㎞にある広島市西区の民家で保管されていました。

この日は9月から始まる一般公開を前に、大きさや状態を念入りに調べました。

原爆資料館 落葉裕信 学芸係長
「転倒しないように少しここに、支えのようなものを作って倒れないようにするか…」

金屏風には「黒い雨」が降りかかった跡がくっきりと残っています。

原爆投下後に降った「黒い雨」。泥やチリのほか放射性物質を含んだ、黒く粘り気のある雨です。

火災が起きた広島の町に容赦なく降り注ぎ、のどの渇きのあまり口にしたという証言もあります。

しかし、雨が降ったエリアや人体への影響などいまだ全容は解明されておらず、そのこん跡を残す資料も多くはありません。

原爆資料館 落葉裕信 学芸係長
「『黒い雨』の跡が残る資料はなかなか資料館の方でもはっきりと跡が残るものは少ないので、まだこういった資料が保管されて残っているのはすごく驚きましたし、すごく貴重な資料だと感じました」

金屏風に降り注ぐ「黒い雨」寄贈した遺族の思い

金屏風を寄贈した広島市西区の 増田理 さん(64)です。

増田さんは当時、国民学校の6年生だった父親が自宅に戻る途中で、全身に「黒い雨」を浴びた話を聞いてきました。

金屏風を寄贈した 増田理 さん
「父はこの辺で雨にあったいうことで。当時としては、なぜ『黒い雨』が降るのかなと、雨にぬれて帰ったということです」

そのころ、自宅の玄関に飾ってあった金屏風にも「黒い雨」が降り注ぎました。

増田理 さん
「爆風で屋根が全部飛んで、そこへ雨が降って、たまたま飾っていた金屏風に雨が降って跡がついたということですね」

金屏風は増田さんの曽祖父が購入したものでした。戦後は飾られることはありませんでしたが、代々受け継がれてきました。

「黒い雨」が降った事実を多くの人に伝えるため、自宅を建て替えたタイミングで寄贈を決めました。

増田理 さん
「『黒い雨』が降ったという証しですよね。健康被害についてもテレビで見たりすると、私も被爆2世なので、やっぱりそういうのを聞けば気にかかるので、何かのお役に立てればと」

“強酸性”の可能性 金屏風から「黒い雨」の正体に迫る

「黒い雨」の研究を続ける、京都大学 複合原子力科学研究所。

厚生労働省の委託を受けて広島大学などと研究グループを作り、▽被爆直後の気象状況を計算で再現したり、▽土壌に残る放射性物質を検出したりして、「黒い雨」が降ったエリアを調べています。

この研究の一環として、金屏風の一部を切り取り、分析を進めています。

研究グループの代表、五十嵐康人 特任教授は「黒い雨」の成分が明らかになれば、雨が降ったエリアの特定につながる可能性もあると話します。

京都大学 複合原子力科学研究所 五十嵐康人 特任教授
「『黒い雨』の成分が本当は何だったのかということはいくつか論文がありますが、必ずしも明確ではないので、『黒い雨』を直接受けたという資料(=金屏風)が新規に見つかったのであれば、そこから新しい『黒い雨の指標』となる物質が探せないかというのが基本的な最初の出発点です」

分析の結果、▽屏風の表面は「金箔」ではなく銅と亜鉛の「合金」だったことが分かりました。▽雨の跡からは原爆由来の放射性物質は検出されませんでした。長い年月の間に放射能が微弱になったためということです。

今のところ、明白な指標となる物質は見つかってはいませんがー。

京都大学 複合原子力科学研究所 向井中 研究員
「このように下から光を当てると『黒い雨』の痕跡状に、下からの光が透過しています」

雨がかかったところだけ光が透けていて、合金が消失していたのです。

このことから「黒い雨」は、合金を溶かすほどの強い酸性だった可能性があることが明らかになりました。

京都大学 複合原子力科学研究所 五十嵐康人 特任教授
「金属の膜が溶けてしまう、これはちょっと衝撃的な結果です。酸性度の強い、硝酸だとか硫酸のようなものが放射線と火の玉の作用によってできたのではないかと」

「黒い雨」には硫酸や硝酸、「炭の微粒子」などが含まれていたとみて、引き続き分析を続けるということです。

京都大学 複合原子力科学研究所 五十嵐康人 特任教授
「『黒い雨』の複雑なプロセスの一端が何かしら見えてきて、黒い雨のシミュレーションモデルの研究もやっていますので、そちらに反映できるといいなというふうに考えています」

「黒い雨」の証しとして受け継がれてきた金屏風ー。その正体に迫る貴重な資料として注目されています。

  ◇  ◇  ◇

青山高治 キャスター
「金屏風を寄贈した増田さんは、子どものころからこの金屏風だけは大事にするように言われてきたそうです。ひいおじいさんの形見という意味もあったそうですが、それが今、こうして貴重な資料として残って研究に役立っている、『黒い雨』の解明に期待されているということなんですね」

コメンテーター 吉宗五十鈴 さん
「金屏風にはっきりと生々しく『黒い雨』がかかっているのを見て、言葉で聞くより、視覚で見てリアルに感じることができる強さを感じました」

中根夕希 キャスター
「『黒い雨』がどこに降ったのか、実際に降った範囲が科学的に明らかになっていない中で、物理的に目に見える形で『雨が降った』とわかるものがあるというのは、とても意味があると感じますね」

青山高治 キャスターー
「研究を進める京都大学 複合原子力科学研究所の五十嵐特任教授によりますと、今後、研究が進んでいけば、なぜ『黒い雨』が降ったのか、雲ができるプロセスの解明などにも役立つかもしれないということです」

※金屏風は9月13日(金)~来年2月25日(火)まで、原爆資料館の「新着資料展」で公開されます。

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