愛媛といえば、やっぱりみかん。甘くてジューシーなみかんを丸ごと包んだ大福、その名も『まるごとみかん大福』は、今治市の『一福百果・清光堂』で生まれました。
キュートな雰囲気のこのお店、実は昭和27年創業の老舗和菓子店。地元で愛され続ける名店です。
平成の後期に入る頃、清光堂では何か新しいものを…と考えていました。「いちご大福があるなら、愛媛ではみかん大福はどう?」と、愛媛育ちのフレッシュな果実と和菓子が出会うことになったのです。
でも簡単ではありませんでした。まず、みかんが手に入りません。普通のみかんで試作して、できたのは特大サイズの大福。
もっと小さいみかんが欲しいと農家さんに相談しましたが、通常は摘果するサイズです。
大福にちょうど良い大きさと味のみかんを安定して入手できるまでには、何年もかかりました。
餡や生地も素材にこだわり試行錯誤を重ね、苦労の末にやっと完成しましたが、いざ売り出すとさっぱり売れません。「どうせいちごの代わりだろう」と批判も受け、それでもコツコツていねいに作り続けているうちに、だんだん人気が広がり始めました。
何年もかけて地元に受け入れられて定着し、やがて全国にも知られるお菓子になりました。
こうして今やスタンダードになったフルーツ大福。
清光堂は『福を運ぶ贈り物』という思いを込めて『一福百果』のブランドを掲げ、愛媛産のさまざまな新鮮果実で大福を作っています。
みかんなど通年販売のものや季節限定ものなど、多い時期には10種類以上のフルーツ大福が並びます。
柑橘だけでも、紅まどんなや甘夏、はっさく、それから小太郎という木に実ったまま年を越すとっても甘いみかんなども。いちご、栗、ぶどう、メロン……他にもいろいろ、どの季節も見逃せません!
今回訪れた秋の初めは『いちじく大福』の季節が始まったばかり。とろりとふくよかな味わいです。
めずらしい『青い桃大福』は香り高くさわやかで、甘味と酸味のバランスが絶妙。
フルーツ大福は冷凍販売なので食べるときは冷蔵庫で解凍しますが、とけきる前のシャーベット状も美味! それぞれの色や断面のかわいらしさもぜひ愛でてください!
大福のほかにも、季節を感じる和菓子やどら焼き、カステラにマドレーヌ…かわいくて美味しそうなお菓子がいっぱいあります。
そして清光堂といえばこれも外せない!というお菓子をご紹介しましょう。
それは『椀舟最中(わんぶねもなか)』。船の形をした最中で、香ばしい皮の中に、シソの風味がふわりと広がる餡がぎっしり詰まっています。
形も味もちょっと変わったこの最中は、清光堂の創業当時から続く伝統の品。清光堂がある今治市桜井地方の歴史がルーツです。
桜井地方は『桜井漆器』の産地です。
江戸時代後期に天領になった桜井では、船で年貢を大阪などへ運んでいました。帰りに漆器を仕入れて戻るとこれが評判になり、椀や膳など漆器を積んだ行商船で賑わうようになりました。
漆器の技術も伝わり、自分たちでも作り始め、現在に続く伝統の桜井漆器が生まれたのです。
この漆器の行商船が、『椀舟』と呼ばれていました。清光堂は椀舟を最中で再現。今も地域の歴史とともに、変わらない味を守り続けています。
今治出身の私にとって椀舟最中は懐かしい味。子どもの頃は食べる前に船に見立てて遊んだものです……。
お店の方と思い出話をしているうちに、近くの名所や桜井の浜の話になり、ちょっと足を延ばしてみました。
清光堂から10分くらい歩くと『綱敷天満神社』があります。梅の名所としても知られる菅原道真公ゆかりの神社です。
東西南北に鳥居があり、西の鳥居から境内をまっすぐ進んで東の鳥居を出ると、目の前に海が!
国の名勝にも指定された『志島ヶ原』です。
この海を、かつて多くの椀舟が行き交ったのだろうなと、思いを馳せて眺めました。
昭和の『椀舟最中』、平成の『まるごとみかん大福』と、時代ごとに名品を生んだ『一福百果・清光堂』は、令和4年秋、新しいステージを展開します。椀舟最中誕生の原点である桜井の浜にもう一度立ちかえり、この浜をイメージした新商品が誕生。次の時代の始まりです!
一福百果・清光堂
住所/愛媛県今治市郷桜井3-4-5
電話/0898-45-0426
営業時間/10:00~18:00
定休日/日曜日・月曜日
駐車場/4台
最寄り駅/JR伊予桜井駅
https://imabari-seikodo.com/
瀬戸内Finderフォトライター 矢野 智子
▼記事提供元
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