80年前の8月6日に当時14歳だった少年、「豊島長生(としま・たけお)さん」が着ていた学生服が、東京の小さな資料館を拠点に様々な場所に出張して、あの日をリアルに伝えています。
学生服のこの日の出張先は、東京都立川市。学習館で開催される毎年恒例の平和展でメインのスペースに展示されます。見学に来た中学生に、ボロボロの姿をさらして、同年代の子どもに起きた80年前の惨禍を生々しく伝えます。
見学した中学生は…
「本当に1発で被害が大きかったんだなぁと悲しい気持ちになります」
「自分と同じような年だからこそ、残酷だし辛いことだと思う」
80年前これを着ていたのは、県立広島二中の1年生だった豊島長生さん。8月6日の朝、建物疎開作業のために爆心地から数百メートルの中島地区にいて、被爆。同級生の多くは即死で、300人以上が犠牲となる中、大やけどを負いながらも、迎えに来た母親と奇跡的に再会。佐伯区五日市の自宅に戻った翌日、息を引き取ったそうです。
学生服は、普段、東京都八王子市にある、「平和・原爆資料館」に保管されています。
八王子平和・原爆資料館 竹内良男運営委員
「見て欲しいのはココ。当て布してまで保存しておいたっていうお母さんの気持ちね」
28年前に寄贈されて以来、額縁に収められた状態で、様々な場所で展示されてきました。
八王子平和・原爆資料館 竹内良男運営委員
「手で運べたから便利で良かった。でもこんな狭いとこに押し込んで申し訳ないって言う感じ」
今後も活用されるために、去年、資料の劣化を防ぐ中性紙を使った専用のボックスに収められました。
今年1月、資料館のメンバーは、この学生服を寄贈した長生さんの妹の永町洋子さんに、聞き取りを行いました。
永町さんは、現在91歳。癌を患って、施設で暮らしています。
豊島長生さんの妹 永町洋子さん
「あの日はね、私はなんか頭痛がするとかなんとかで、うちにいたんです。みんな学校行ってるのに。それで母が『広島に爆弾が落ちたみたい。とにかくお兄ちゃんが心配だから行く』って言って」
母親はその日、大やけどをした長生さんを荷車に乗せて帰ってきました。でも、洋子さんが学生服の存在を知ったのは、その半世紀後。母の遺品整理をしていて茶箱の一番底で見つけました。あの日、血まみれで泥だらけだったはずの4着は、キレイに洗われ、きちんと畳まれていました。
豊島長生さんの妹 永町洋子さん
「黙って自分でしまってしまって。(Q。全然聞いた覚えはないですか?)遺品を整理して初めて知ったんです。それで母の気持ちがわかったんです」
血液の跡とみられるシミだらけのランニングは、ハサミで切り割かれていました。豊島長生さんの妹 永町洋子さん
「多分救護所で、治療するときに、これを脱がせて、それでお薬をつけて」
ズボンは、父親の服を母が仕立て直したものでした。存命中、母は一度も長男・長生さんのことを話しませんでしたが、継ぎあてた布の中には、服がバラバラにならないよう被爆後に、縫い込まれたようなものもありました。
豊島長生さんの妹 永町洋子さん
「これは、私たちに残してくれたもの。それも私だけじゃなくてみんな若い人に見てほしい、原子爆弾がどんなものかってい知らせてほしい。その悔しさを伝えたくて置いてたんじゃないですか」
長生さんは作文に「将来は大君の御ために1日も早くこの命を捧げたい」と記していました。
洋子さんは、兄が亡くなった時の様子を、今もハッキリ覚えています。
豊島長生さんの妹 永町洋子さん
「『お母さん起こして』って寝てたのを母が抱いて起こしたら、そしたらいきなり君が代を歌い始めた。それもはっきりと。歌って歌い終わったら気持ちがスッキリしたよって言って。言って間もなくもうすっと。それだけは残ってます頭に。あれは忘れられませんね。だから私は歌わない。黙ってる。それを歌うと涙が出てきます」
スタッフ 佐藤優さん
「これが8月6日当日、豊島長生くんが着ていた服になります」
この日学生服は、東京都渋谷区に。核兵器についての勉強会で、実際に使用されたらどうなってしまうかを見せました。
フランス紙の記者
「洋服を見たら、過去と現在のリンク(つながり)がすごく強くわかります」
参加した親子
「あんなボロボロになると思ってなかった」
「こんなに近く、ショーケースの中じゃないっていうのは、インパクトがあるというか、訴える力があると思いました」
原爆について、何で知るか…本を読んだり絵を見ることもあると思いますが、こうやって現物を目の前にすることは、かなりリアルな体験となり、身近に感じたり、イメージが膨らんだりするのではないでしょうか? しかもこちらの遺品は、東京を拠点に色んな場所に、「出張する」仕組みです。
去年は八王子平和・原爆資料館から19カ所に貸し出されました。の搬を各自でやれば、基本的に費用は無料です。今後、直近では、4月2日~17日、立川市の立川市柴崎学習館に展示される予定です。
八王子平和・原爆資料館では、今回、妹さんから聞き取った内容や、遺されT手紙などからわかることをまとめて、学生服の展示に活かしたい考えです。
また、洋子さんの息子さんは今、家族伝承者となるために勉強中で、母と、その兄のことも伝えられたら、と話してます。
なお、遺品を扱う際に素手で行っているのは、手袋の着用により繊維と繊維が擦れて劣化が進むことを防ぐためで、キレイに洗った状態で取り扱っています。
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