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砕石と人間魚雷「回天」の歴史をたずねて(山口県周南市 大津島)

山口県周南市沖に浮かぶ大津島(おおづしま)は、新幹線の徳山駅からすぐに渡れる離島です。
この小さな島は、太平洋戦争時代に投入された人間雷魚「回天」の基地跡が遺る場所として知られています。
映画や漫画の舞台にもなった静かな島に、今も刻まれる歴史の跡をたどります。


徳山駅:新幹線改札から歩いて5分で船着場へ

東京から新幹線のぞみ号でおよそ4時間半、JR徳山駅のみなと口を出ると、200m先はもう大津島への船着場です。

大津島行きの定期船は1日7便。定期船が止まる港が4つあり、便によって順路や乗船時間が変わってくるので、時刻表でしっかり確認しましょう。

いよいよ出航。晴れた日は2階デッキが最高! 徳山湾に停泊するさまざまなタンカーや貨物船を見るのも楽しいです。

島が見えてきました。観光に便利な最南の馬島港までは約20分です。


潮風に吹かれてサイクリング。石切場やガマの群生地へ

周囲約20kmの大津島の周遊には自転車が便利です。
今回は、馬島港からすぐの大津島ふれあいセンターで自転車をレンタル。料金は1日300円です。

島の中ほどまで来ると、道路に高く積まれた巨石が。実は大津島には良質な花崗岩が埋まっており、近世初頭から採石が盛んに行われてきたのです。

かつての石切場。巨大な石を切り出した岩肌が、長い年月の中で風雨にさらされて滑らかになり、独特の美しさを感じます。

海側の道沿いには「大阪城築城の残石」があります。
江戸時代、徳川氏が大阪城を築く際、時の藩主、毛利秀就が大津島から石材を送った歴史があるのです。

近江という地区に入っていくと、広大なガマの群生地があります。湿地の中に伸びているのは厳島神社への参道で、とても神秘的。厳島神社といえば、世界遺産にも登録されている広島県の宮島のそれがまず思い起こされますが、この大津島の入江も創建時の候補地だったともいわれています。


島で唯一の食堂。「島食堂ひなた」。「すだいだい」のカレーとビールに大満足

戻ってきたらすっかりお腹もペコペコ。そこで島で唯一の食堂の『島食堂ひなた』へ。

人気メニューの「ひなたカレー」を注文。ほどよくスパイシーで、独特のうまみがあります。実は、隠し味に島で収穫される柑橘類「すだいだい」のジャムが入っているのです。
すだいだいは1本の木に2代、3代と実をつけることから、子孫繁栄につながる縁起のいい果実とされています。
野菜サラダのドレッシングにもすだいだいシロップが使われており、甘みと酸味のハーモニーが絶妙です。

さらに「すだいだいビール」も。すうっとほのかで爽やかな酸味が飲みやすく、それでいてしっかりとしたコクもあります。島の空気ごとキュッと閉じ込めた逸品を窓から海を眺めながらいただく至福のひと時。

土曜スタッフの松本皆美さん。「朝、船に乗って島に来るだけで本当に気持ちいい。ここは街より季節がはっきりと感じられます」。
今回ご紹介したカレー以外にも「島のアジフライバーガー」やひなたオリジナルのブレンドコーヒーなど、ここでしか味わえないメニューが充実しており、絶対おすすめのスポットです。

島食堂ひなた
住所/山口県周南市大字大津島2823-1
電話/0834-85-2777(大津島ふれあいセンター)
営業時間/土日祝10:00〜14:00(12月〜3月は冬季休業)
※8人以上で来店する場合は2週間前までに要予約
https://www.rainoshima.com/eat


人間魚雷「回天」。日本に唯一残る遺跡で平和を思う「周南市回天記念館」

「回天」は、太平洋戦争末期、大日本帝国海軍が投入した特攻兵器です。大量の爆薬を搭載した回天に人間が乗り込み、潜水艦から発進したあと、海中を操縦して乗員もろとも敵艦に体当たりし、爆破する恐ろしい兵器でした。
大津島には回天訓練基地が開設され、島の周囲を航行するなどの訓練が行われました。今も全国で唯一、基地跡が残されており、貴重な戦争遺跡として多くの人が訪れています。

山手にある少し小高い丘の上に、周南市回天記念館があります。

まず目に飛び込んでくるのは全長14.75mの回天の実寸大レプリカ。

記念館には搭乗員や整備員の遺影や遺品、手紙、軍服などおよそ1,300点が収蔵されています。回天の歴史や時代背景、当時の生活ぶりなどもパネルでよくわかり、ジオラマや研修室もあります。また、視聴覚コーナーでは元搭乗員たちが回天について振り返るインタビュー映像も観ることができます。

発射訓練基地跡へ向かいます。回天を整備工場から基地まで運搬する際に使われたトンネルは高さ4m、長さ約250m。内部は、路面以外は当時のままです。

中には当時撮影された兵士たちの写真が掲げられています。

トンネルを抜けると、海に浮かぶ基地の姿が現れます。

搭乗員たちが乗り込み、訓練に向かった発射口。訓練中の事故で亡くなった方もいます。

「ブラックジャックによろしく」でおなじみの漫画家・佐藤秀峰さんが、人間魚雷の誕生と乗り込む兵士たちの心情を真正面から描いた「特攻の島」や、故・佐々部清監督、市川海老蔵さん主演の映画「出口のない海」など回天、大津島をテーマにした作品もあります。

周南市回天記念館
住所/山口県周南市大字大津島1960
電話/0834-85-2310
開館時間/8:30~16:30
入場料/大人310円、18歳以下の学生と幼児無料 ※30人以上の団体の場合、大人250円
定休日/水曜日(祝日の場合は翌日)・年末年始(12月29日~1月3日)
https://www.city.shunan.lg.jp/site/kaiten/


絶景のテラスと露天風呂。至高の宿『小屋場只只』

今回は日帰りで島を回りましたが、宿泊して島を満喫したい方のために趣向の違う2つの宿泊施設をご紹介。

まずは一日一組限定の至高の宿『小屋場 只只(ただただ)』。回天基地跡のある入江の向かいの丘の上に立つ、平屋の宿です。

上質な家具とアートに囲まれた、ため息が出るほど素敵な空間。島に惚れ抜いて、ライフワークとしてここを構えたというオーナーの水本雄二さんのこだわりが隅々にまで感じられます。

しかし、何と言っても主役は広大なテラスからの眺望。

そして、大きな花崗岩の五右衛門風呂と見渡す限りの瀬戸内海。これぞ大津島!
只只は一泊2食付き。地元の食材をふんだんに使ったお料理やかまどで炊いたご飯も味わえます。
自然と一つになって、極上の時間を心ゆくまで過ごせる宿です。

小屋場 只只(こやばただただ)
住所/山口県周南市大津島字西田浦2763
電話/090-4650-8121(受付時間は日曜・月曜の11:00~15:00)
チェックイン15:30~/チェックアウト11:00
https://koyaba.info/


BBQも楽しめるキャビン。大津島ふれあいセンター

もう一つの宿泊場所は大津島ふれあいセンター。宿泊棟が4棟あり、一棟に6人泊まれます。

宿泊料は一人1,300円(シーツ代は別途400円)と格安。バーベキューもできて、家族や仲間で楽しく過ごせる施設です。

大津島出身でスタッフの松本千恵子さん。「何にもないかもしれんけど、島を大事に思っちょる人がいっぱいおるから、ぜひおいで」。

大津島ふれあいセンター
住所/山口県周南市大字大津島2823-1
電話/0834-85-2777
スタッフ対応時間/8:30~17:00
宿泊の場合 チェックイン16:00〜17:00/チェックアウト8:30~10:00
定休日/水曜日
https://www.rainoshima.com/community-center


夕方の便で島をあとにして、暮なずむ徳山港へ帰ってきました。並んだ船の灯が「おかえり」と言ってくれているようです。疲れていても大丈夫。船から降りて、歩いて5分で新幹線のホームです!(笑)
瀬戸内海の周防灘に浮かぶ大津島は、採石と人間魚雷「回天」の歴史、そして故郷を愛する人々の温かい気持ちに満ちた島でした。皆さん、ぜひおいでませ!


瀬戸内Finderフォトライター 堀永 州平

▼記事提供元

瀬戸内Finder

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