広島県内における65歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故件数は、近年ほぼ横ばい傾向が続いています。一方で、運転免許保有者数あたりの事故件数を年代別に見ると、75歳以上が圧倒的に高く深刻な状況となっています。

広島県警によりますと、交通事故件数が減少傾向にある一方で、高齢ドライバーが関与する事故の割合は増加傾向にあります。

そんな高齢ドライバーが運転免許を更新するときに義務づけられているのが「高齢者講習」です。その現場を取材しました。

「認知機能の変化などを自覚する機会に」

座学と実車試験の2つを受講する高齢者講習は70歳以上のドライバーが運転免許を更新する際の受講が義務づけられています。さらに、75歳以上になると「認知機能検査」が加わり、これらをすべて受講して初めて「高齢者講習終了証明書」が交付されます。

高齢者講習について、広島県警 運転免許課 課長補佐の伊藤悠司 警部は「高齢運転者による重大事故も発生しているので、自身の認知機能の変化などを自覚する機会にしてほしい」と話します。

原則として県内各地の自動車学校で受講する高齢者講習。広島市安佐南区にある沼田自動車学校でも実施されています。

認知機能検査 苦戦する受講者も多数

75歳以上を対象とする認知機能検査を取材しました。

受講者たちはまず、モニターに表示される複数のイラストを記憶します。次にランダムに並んだ数字の中から制限時間内に決められた数字だけに線を引いていきます。

これを数回繰り返した後は、最初に覚えたイラストを思い出し、回答欄に書き出していきます。別の作業を挟んだ分、思い出すのに苦労する受講者の姿も目立ちました。

続いて、動体視力や夜間視力、視野の広さなどを測る「運転適性検査」などを終えるといよいよ「実車試験」です。ことし87歳になったという男性の実車試験に記者が同乗しました。

慣れない車に戸惑いながらも...

右左折など、基本的な運転操作に問題はない男性。試験の前半は標識を確認したり、指示器のタイミングを確認したりする余裕がありました。しかし、後半になるにつれて一時停止の標識を見落としたり、ブレーキ操作の遅れなど、事故につながりかねないミスが重なってしました。

普段と違う車で少し戸惑ったという男性は「前回の講習では特に思わなかったが、今回は少し難しかった」と話しました。

高齢ドライバーの交通事故を防ぐために最も効果的とされているのが、「免許の自主返納」です。しかし、受講生たちに話を聞くと、車を手放せない現状も見えてきました。

記者が「車のない生活が想像できるか?」と尋ねると、受講者の男性は「何にもなかったら大丈夫だが、買い物は想像できない。日常生活で車はなくてはならない」と答えました。

他の受講者も「住んでいる地域は『店がない』『病院がない』で車がないと便利が悪い」と話しました。

「危険だから返納」では済まされない現実

高齢者の事故防止に有効だと思う取り組みについてのアンケートを地域別で見ると、その壁が浮かび上がってきます。

広島市などの広島地方生活圏では55.7%、福山市などの備後地方生活圏55.2%と、半数以上が免許返納が有効だと考えているのに対し、過疎化や高齢化が進む中山間地域が中心の備北地方生活圏では48.8%と他の地域より6ポイント以上低い結果となりました。免許返納が現実的な取り組みでないことがみてとれます。

こうした事態を受け、地域でのサポートも始まっています。

広島市内では、高齢化が進む住宅団地で乗り合いバスを運行しています。また、運転免許を返納した人を対象に、タクシー運賃の割引などのサービスを行う事業者もあります。

高齢ドライバーに「危険だから免許返納を」と迫るだけでは地方の暮らしは立ち行きません。加害者にも被害者にもさせない仕組み作りを地域全体で考えることが急がれます。