――7月某日
ミュージシャン中村耕一さんが、灼熱の広島に降り立って言ったのは、「夏は昔は好きだったんだけどね…」
あの「夏の定番曲」を歌う中村さんは、どうやら夏の暑さが苦手になって来たようだ――
【中村耕一】
ぼくは北海道で生まれ育って、当時は一番南の函館でさえ、夏が正味1ヶ月あるかないかなんですよね。
高校ぐらいまで住んでいたけど、子どもの僕にとっても夏が全てだった。だから大好きだった。
どんなに暑くても、Tシャツが汗で、ベタ、ベタ、ベタっていうのは「わあ、いいな」っていう感じだった。北海道に住んでたときは、半年近く冬なわけですよ。それが嫌で嫌で、あったかいところに行ってみたいな、となって。名古屋に今、住んでるんですけど。半端じゃないんですよ、悪意を感じる暑さ。それで引きこもるようになったね(笑)。

「何も言えなくて…夏」は冬の曲だった!?作曲当時を振り返り「手応えなんて全然なかった」
これまで曲を作ってきて、どの曲もすんなりできた記憶はないです。時間かかるタイプですね。
「何も言えなくて」も、手応えは全然なかったんですよ。あのメロディーができたとき、「今まで作ってきた中では、ちょっとマシな曲ができたかな」っていうぐらい。
最初、冬のアルバムの中の1曲で。シングル曲になるというのは、誰も思ってなかった。だから、初めはタイトルに「…夏」はついてなくて「何も言えなくて」っていう曲だったんですよ。年が明けて、春ぐらいになったら、様子が変わってるわけですよ。世間で、あの曲が話題になってた。レコード会社の人たちも、ちょっとそわそわし始めた。

RCCの生放送番組で歌唱「何も言えなくて・・・夏」
メンバーも驚く「何も言えなくて」のヒット 無理矢理季節を変えた「…夏」
アルバム曲の「何も言えなくて」をシングルで切り直そうっていう風に、決まったんですよ。でも、原曲の歌詞には「メリークリスマス」「サンタクロース」って言葉も出てきてるから、これはダメだろうって話になって。で、どうするんだよって言ったときに、詞を書いた、ギターの知久(光康)が「じゃ、季節変えるから」って一言。「どうやって変えるんだ?」って思いましたよ、僕は。なんで冬から夏に変えられるのって。
Q.今も季節で歌い分けるんですか?
やっぱり、11月ぐらいに「何も言えなくて…夏」を歌うと変な感じしますもんね。一番厳しいのは、年明け。「サンタクロース」って言葉、「メリークリスマス」って言葉が入ってるだけで違和感。かといって、「…夏」は、もっとおかしいし。でも、歌ってます。みんな喜んでくれるから。

RCCの生放送番組で歌唱「何も言えなくて・・・夏」
何度も歌ってきたヒット曲 自身の体験から「絶対にアレンジしない」と決めた理由 ポール・マッカートニーのライブに涙
Q.これまで何度も「何も言えなくて」を歌ってきて、歌い方を変えたいと思ったことはないんですか?
あるんですよ。アレンジとか歌い方とかを変えたこともあった。でもね、絶対にしないようになりました。僕は好きなミュージシャンがいっぱいいるんですけどね。例えば、その人のコンサートに行くとするでしょ。で、「僕は一番この曲が聴きたい」って思っているとする。超有名な曲で散々ステージでやってるから「今日はアレンジ変えてやります」ってなると「俺は、あれを聴きにきたのに!」って思うんです。実際、思ったことも何度もある。
「何も言えなくて」もさんざっぱら歌うと、やっぱりそういうことが起こるわけですよ。だから、「J-WALK」の頃は、ちょっと歌い方を変えたりとか、音を変えたりとか、アレンジ変えたりっていうのあったんですよ。でも、僕は今はもう、絶対変えない。聴いている人たちのその時の情景とか、そういうのは、歌だけではなくて、言葉だけではなくて、やっぱりアレンジも全部含めて、でしょう。
Q.中村さんも、ファンの心になって、初めてわかったってことですか?
僕の大好きなエリック・クラプトンのライブに行ったとき、大好きな「レイラ」の演奏がアコギだった。いや、それはそれで素晴らしいけど、「俺はエレクトリックであのイントロを聴きたい、それで育ってきたのに!」ってね。
あとはね、何年か前にポール・マッカートニーのコンサートに行ったんですよね。ある時からポールが、ビートルズの曲を自分のコンサートでやるようになったんですよ。もう、これでもかっていうぐらい。で、アレンジは変えない。もうね、泣きました、僕。
中村耕一+JAYWALK 45周年ツアー開催「喜んでもらえる曲ってだいたいわかる それを全部やる」
――中村耕一さんは、9月からJAYWALKのメンバーと45周年記念のツアーで全国を回る――
果物に例えると、もうみんな「完熟」している。その完熟度をね、味わってもらいたいな。僕はソロで活動してて、向こうは今「JAYWALK」で活動してて。なおかつ、ソロでも活動してたわけですよ、それぞれ。それってすごく、得るものが大きいんですね。僕、ソロやってみて、初めてわかったんですけど。音の作り方というか、アンサンブルの感じとか、なんか違うよね。みんなソロとかやって、培ったものっていうのが、音に出てくるんだろうな。なんて、僕は勝手に思ってたんですけど。そういう時なんだね、今。
やっぱりね、喜んでもらえる曲って、だいたいわかる。この曲はあんまり…なんでこの曲?みたいなもの、僕らのエゴみたいなのは、あんまり入れず、「この曲だったら、喜んでもらえるよな」っていうのをね、出し惜しみなくやりたい。みんなが持っている「曲の背景」を楽しんでもらいたい。みんな持ってると思うんですよね。

RCCの生放送番組で歌唱「何も言えなくて・・・夏」
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