2022年8月、14歳だったAさんが自ら命を絶ちました。背景には、「学校からの大量の課題」と「教員からの厳しい指導」への恐怖があったとみられています。
Aさんの死から4年、ようやくまとめられた広島県の第三者委員会の調査報告書。
受け取った両親の思いは…?
Aさんの母
「今回の詳細調査の結果が出て、何もしなかったんだなっていうのは、よく分かって、すごい辛いですけどね」
Aさんの父
「全体として意識を変えない限りは、まだ続くと思う」

4年前、県立中学校2年生の男子生徒Aさんが、東広島市の踏切で自ら命を絶ちました。
その原因をめぐって、調査を続けていた広島県の第三者委員会が149ページにわたる報告をまとめ、先日、両親に伝えました。
成績優秀でいじめや病気とも無縁だったAさんが追い詰められていったのはなぜか…。両親の思いを取材しました。
4年前の8月 新学期が始まる朝
広島県内に住むご家族の元を訪ねました。Aさんは、両親と姉との4人家族でした。
県立中学校の2年生だったAさんが、踏切の中に侵入して、自ら命を絶ったのは、2022年8月24日午前7時59分。新学期が始まる朝でした。

父親が車で駅まで送って行ったときには、登校を嫌がる様子もなかったそうです。
Aさんの父
「あの頃は結構体調崩してたんで、むしろ学校の近くまで送ることの方が多かったんです。夏休み明けに息子が言うには、『ちょっと友達と約束して一緒に行くことになったから』ということで、駅まで送って」
Aさんの母
「夏休み中も、ほぼ毎日部活には行ってたので、不登校になってなかった。だから、なるとしたらまずは不登校なのかなとは思ってたんですね」
成績優秀で友だちとの関係も良好だった息子に起きた異変

小学校のころから亡くなるまでずっと、成績は優秀で、友だちとの関係も良好だったAさん。
中学校に入学した直後から、朝なかなか起きられなかったり、トイレに何度も行くなどの症状が出ていました。
報告書では、「この状態は、起立性調節障害と過敏性腸症候群と呼ばれる自律神経(特に副交感神経系)の過活動からくる心身症である」としています。
学校で何がストレスになっているのか。発覚したのは、1年生の10月。ワクチンの副反応で2日間休んだために、課題の提出が遅れました。
Aさんの母
「学校から帰ってきたら、『ワクチンの副反応だかなんだか知らんけど、ちゃんと朝出せ』って言われたって。きつい先生と思ったんですよね。それが本当に本人がぽろっと言った最初」
厳しい指導と激しい叱責は入学直後から
厳しい指導と激しい叱責は、Aさんの入学直後から始まっていたことが分かりました。
Aさんの母
「『ノートに不備がある』って、部活にまで英語の担任が怒鳴り込んできたと。それも理解できないんですけどね。
で、『誠意を持って完璧にして出せ』って言われて、教室に連れ戻されてやり直しをさせられた。
普通怯えますよね、そんなこと言われたら。それ以来、『出したらまた怒鳴られるって思うと、もう怖くて出せない』っていう言い方をしていた」

家族は、学校にかけあう一方で、Aさんには何度も転校を提案していたそうです。
Aさんの母
「『もうやめようよ、この学校』って言った覚えはあるんですよ。『転校したっていいんじゃない?』とかって言ったら、『いや、仲のいい友達がいるから、部活も楽しいし、学校変わりたくない』って言ったんですよ。
だったら目を付けられないようにするしかないのかなと」
「先生に目を付けられないように」 大量の課題に家族で対応
大量の課題でも、締め切り日が急に知らされるようなことがあっても、滞りなく提出できるように、家族はスケジュールの立て方をサポートするなどしました。

Aさんの母
「締め切りが同じものをカレンダーに書いていって。終わったらチェックつけて、という風にやったんですよ」
Aさんは、元々勉強は得意だったので、問題を解いたり単語の練習をしたりすることそのものには、何の問題もありませんでした。
しかし、大量の課題がこなせるようになっても、Aさんの不調は変わりませんでした。
「指導のときには涙を毎回のように流していた」
県の第三者委員会の報告書では、Aさんは、
「ストレスにより次第にうつ状態となり、時に希死念慮(死にたいという思い)が生じるようになった」
「叱られないようにしなければという強い緊張を抱え続けた」
とされています。

第三者委員会がAさんを知る生徒からとったアンケートでは、複数の教員がAさんに対して厳しい指導を繰り返していたことが明らかになりました。
Aさんの父
「少なくとも毎回泣かされるような指摘を受けていたっていうのは、ちょっと。うん、それは本人ショックだったろうなとは思いますね」
Aさんの状態に気付くことはできなかったのか?
Aさんは、中学校で実施される学校生活の満足度を尋ねるアンケート(hyperQU)を亡くなるまでに3回受けていて、毎回、「教師との関係が悪い」という結果が出ていました。
特に、亡くなる2か月ほど前の回答では、早急な支援が必要な状態にまで陥っていました。

しかし、学校側は何の対策も講じず、三者面談の際にも保護者に知らせていませんでした。
両親が自分たちで調査して、このことを知ったのは亡くなった2年後。学校側に問い詰めたそうです。
Aさんの母
「それまで担任の先生は『Aさんの心理状態が悪化してるってことを気づかなくてごめんなさい』って、私に言ってたんです。
気づかなかったんじゃないんですね、気づいてらっしゃったんですねって私は言った」
報告書では、学校側の対応が「極めて不十分」だと指摘されています。
そもそもこの報告書をまとめた第三者委員会は、遺族の求めにより県教委から独立した組織として2024年に設置されました。
募らせた不信感 県教委から独立した第三者委員会を
遺族は、Aさんの亡くなった背景についての調査をめぐって、学校や県教委の姿勢に、不信感を募らせていました。
2024年当時のインタビューでは…
Aさんの父
「入学以降、様々なストレスを蓄積して追い込まれていっての事故だったと考えているので、なぜそんなことになったのかという背景をしっかり抑えてほしい」
実は、Aさんの死の翌月、同じ学校の別の生徒が命を絶っていました。Aさんの両親は強い危機感を覚え、学校に保護者会の開催を求めたと言います。

Aさんの母
「(保護者仲間が)何も説明がないんだと、だからもう何が学校で起きてるのかわからなくて、もうみんなすごい不安がってるんですって言い出して」
Aさんの父
「8月、9月と2件あったんで、もうそれは重大事態ですから、やっぱやらなきゃいけないよなとは思いましたね」
しかし、学校は保護者会を開かず、開催を求める人には「遺族が望んでいない」と説明したそうです。
自分の子どもだけではない、という危機感
Aさんの遺族には、OBや現役の生徒からの悲痛な声が寄せられていると言います。
Aさんの母
「あの学校は今もやってるんですよ、面前叱責を。何回も。いろんな生徒さんから相談がうちに来るんですよ。『こんなこと言われた』『こんなことやられた』って
『先生とのことで悩んで死にたいって言ってる』って、はっきりそう言ったんで」

Aさんの死について調べてきた両親の元に集まった証言は、Aさんについてのエピソードだけではありませんでした。
子どもたちが受けている厳しい指導や激しい叱責は、他の人が見ていることもあれば、見ていない場合もあります。
それでも、そのやりとりはどれも具体的で、一人一人がかけられた言葉や態度は、柔らかい子どもの心をえぐるようなものばかりでした。実際に、その後不登校になった子どももいる、とのことです。
Aさんの両親の口ぶりからは、単に再発防止を願うというよりも、強い危機感がにじみ出ていました。
問題は「報告をどう活かすか」
第三者委員会の報告書は、2年かけて、133人からの聞き取りや794件のアンケート、およそ8000枚の調査資料を調べるなどして作成されました。
「学校現場の状況からは、誰もが『Aさん』になり得る」「誰一人『Aさん』にならない学校・地域づくりを進めていかなければならない」としています。
Aさんの両親は、報告書を評価する一方、これが学校現場でどう活かされるかが問題だと言います。

Aさんの父
「教員自身が自覚して変わろうとしない限りは何も変わらないと思う。そこをしっかり学校として、教育委員会としてちゃんと指導していく。再発防止に真剣に取り組んでほしい」
Aさんの母
「とにかくね、やめさせりゃよかったってほんとに思ってます。首に縄つけてでも、やめさせりゃよかった。
本人には恨まれたとは思うんですよ、そんなことやったら。本人行きたくて行ったんだし、友達もいるんだし、部活も楽しいしって言ってるのを、何がなんでも行くなって言ったら。
助けられたかもしれん。恨まれただろうけど…もう後悔しかないですよね」
第三者委員会の提言は…

第三者委員会は、今後の対策として
▽生徒が「1人の人間として大切にされている」と感じられる教育の実現、
▽学校や県教委から独立した生徒の相談窓口の設置、
▽生徒の自殺などに対応する総合的なマニュアルの整備などを提言しています。
今回の報告書について広島県教委は「真摯に受け止めて二度とこのようなことを繰り返さないよう取り組んでいきたい」などとコメントしています。

今、悩みを抱えているという方は、「#(ハッシュタグ)いのちSOS」など電話の相談窓口があります。厚生労働省のホームページではこのほかにもSNSなど様々な窓口が紹介されています。是非、周りの人やこういった窓口を頼って、まずは話をしてみてください。
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